腫瘍浸潤リンパ球のエンリッチメント

論文の再々投稿が終わったので、久しぶりに実験が前に進んだ。今日、レビューアーにまた送られたらしい。投稿とか何も知らないResearch Associateが「おめでとう!!」みたいに言ってきたけど、全く喜べず、「今からが大変なんだけどな。」と思ってしまった。

言うても、研究が進んだとはいえ、予備実験なので実質的に研究が進展した訳ではない。マウスに移植したマウス乳がん腫瘍を摘出して、それをシングルセルにし、CD45に対する抗体と磁気ビーズを用いて腫瘍内のCD45陽性細胞(腫瘍浸潤リンパ球;Tumor Infiltrate Lymphocyte)をエンリッチメントする、という実験手技の樹立をやっている。特に樹立なんて大袈裟なものではない。一般的な手法だと思う。ミルテニーのMACSセパレーターとかを使いたいんだけど、これらの初期コストが高かったので、数あるマグネットの中から一番安いBioLegendのMojo Sortを選んで使っている。以前、日本の某研究所に居たときは腫瘍内のCD45陽性細胞のデプリーションとEPCAM陽性細胞のエンリッチメントをミルテニーのMACSマグネットを使って行っていたので、それと基本は同じである。

しかし、一回目の実験が全くうまく行かなかった。全くエンリッチメントされない。こんなことってあるのか、とマジで思った。一回目はBioLegendのNanobeads直接標識CD45抗体とMojo sortマグネットを使ったのだが、データシートをよく見てみると、エンリッチメントの結果が怪しい気がする。どうもNanobeads標識CD45抗体自体が怪しい。ということで、PE標識CD45抗体とPEを認識するNanobeadsを使ってみたら、なんとかうまくいきそうだったので、それを実際の腫瘍を用いて実験してみる、というのが今回の実験だ。これはなんとかうまく行けば良いと思っている。というか、失敗したら次はどう改善すれば良いかわからない。というのも、過去の他2回の実験でだいぶトラブルシューティングできたはずだ。マグネットを通したあとはBioLegendで売ってる4%PFAで固定しているので、後日フローサイトメトリーで確かめる。うちは患者由来異種移植片(PDX)、つまり元はヒトの組織なんかも使っていたので、固定してから解析するのが、安全面からも良いとされている。この固定を使うと、ある抗原やAPC-Cy7などのタンデムダイはダメになるので、要注意だ。

次の日にフローサイトメーターの予約が取れたので、さっそく確認してみる。言うても、この実験は単染色なので特にCompensationもなく、なんかよくわからん心配をしなくてよい。結果としては、CD45陰性細胞のディプリーションは完璧だったか、どうしてもCD45陽性細胞のサンプルにCD45陰性細胞が20から30%混じるらしい。マジか。今回の実験では、データシートで推奨される抗体の濃度で、どのくらいの細胞数まで捕捉できるのか把握したかったので、細胞数をデータシート推奨の細胞数から下に2桁くらい振ってみた。で、CD45陰性細胞のディプリーションやその他の結果をみる限りでは抗体やNanobeadsの濃度は大丈夫そうだ。なにが原因だろう….あれか、デカントか。たぶんデカントだ。マグネットに通したサンプルをデカントで分離せざるを得ないので、そのときに僅かに残ったCD45陰性細胞がCD45陽性細胞に混じるのだろう、と今は考えている。どうしようか….ひとまず何か対策を立ててなければいけない。それと、この20から30%という数字は、死細胞の割合とも近い。おそらく、死細胞を分別しないといけない。これは、当然か。これを金曜日のミーティングで見せて、本実験に移るかどうか決めようと思う。まぁ、この感じだと移るだろうと思う。

本実験はCyTOFの予定だ。Mass cytometoryというヤツだ。エンリッチメントしてsingle cell RNA-seq(scRNA-seq)なんかをうちのボスはやりたかったらしいのだが、いろいろ個人的に調べた結果、scRNA-seqで解析できる細胞数はたった10000個やそこららしいし、一度RNA-seqによる細胞の種類の推定をやったことのあるウェット生物学研究者ならわかってくれると思うが、かなり怪しい。バイオインフォマティクスの研究はホント怪しいのばっかりだ。あまり独りよがりなコンピューテーションを世に出さんといてほしいものだ。ということで、こんな数の細胞でもともと少数のポピュレーションを見るのは難しい、ということになって(自分が提案したのだが…)、「CyTOFやろうぜ」とうちのボスを口説いたわけである。CyTOFなら、抗体を使う以上直接細胞表面タンパク質の発現を検出しているし、細胞数も十分に稼げるから、バリデーションに用いる通常のフローサイトメーターとの互換性も良いはず、と考えている。

最近知ったのだが、最近では同時に40カラーを同時に分離できます、みたいなフローサイトメトリー(https://cytekbio.com/pages/aurora#tab-data)も出ていて、それがうちの大学にもあった。なんか、CyTOFとかじゃなくて、こっちでもいいんじゃあないか、というか、こっちのほうが良くないか、とか思ってしまった。

3月11日(木)訂正;腫瘍浸潤白血球(Tumor Infiltrate Leukocyte)を腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrate Lymphocyte)に訂正しました。ずっと白血球だと思っていました。CD45はリンパ球全般っぽいですね。