ブロッキングに用いるスキムミルクとBSA

日付;2021/04/06(火)

先週に細胞の準備が整い、現在行っている論文を改訂するためのウェスタンブロットが先週の金曜日から始まっている。このウェスタン、どうも結果に差がないように思うのだが、どうなんだろうか。そもそも、二回目のレビューアーからの要求は、すでにそのときの実験で解決してあり、今回は「実はこうしてほしかった。」という感じの要求なので、いくらでも「前回までの要求にはすでに答えている。その前回までの要求と、すこし異なることを今回は要求してきている。このレビューアーはクソだ。」と言えると思うのだが….この辺り、完全にボスや研究者個人の能力が判るシチュエーションである。できるひとならこんな無駄なヤツを相手にしないだろう。すでにエディター側からも「ジャーナルのポリシーにより(しゃあなしで)レフェリーには回答する必要がある。」というコメントと、エディター側のリクエストとして図をパブリケーションのレベルにまで直すことや、この論文に対するエディターからの2行のコメントの候補なども送られてきていることから考えて、エディター側もおかしなことを理解しているように思う。

コイツ覚えておけよ。コイツのレビューは公になるので、そこで間抜けをさらせば良い。そうするためにも、全てに答えてやるからな。

結果に差がなくても、実験はしなくてはならない。その実験で、あるタンパク質のリン酸化チロシン残基に対する抗体を使う必要がある。リン酸化タンパク質に対する抗体を使う場合、そのブロッキングにはスキムミルクではなくBSAを使用するのが一般的だ。しかし、ここで研究を初めて3年半、BSAには裏切られ続けてきた。実際、リン酸化AKT1に対する抗体なんて、3%スキムミルクがすごく良かった。確かに、5%スキムミルクを使うと、オーバーブロッキングになったりするので、そもそもリン酸化タンパク質を認識する抗体に対しては、スキムミルクはあまり良くないのだろう。確か、スキムミルク(ミルク)には、カゼイン(英語ではCasein; ケイシン)みたいな高度にリン酸化されたタンパク質が含まれているためだったと思う。しかし、だからといってBSAを使うと、非特異のバンドもかなり多く出るのも事実である。シングルバンドでキレイに出るが多少ブロッキングが強く出る方、抗体の認識には影響はないが、同時に汚いブロットになる方、どっちが良いだろうか。当然、前者に決まってる。ということで、自分の実験ではBSAは全くといっていいほど使っていない。

しかし、それらはセリン残基のリン酸化を見る上での話だったらしい。上述のように、チロシン残基に対するリン酸化を見ている。そして、いつものように3%スキムミルクを使って実験するも、かなり汚い。そこで、満を持して、条件を検討してみることにした。抗体の濃度とブロッキング剤の検討だ。

ブロットが汚い場合は経験上2つの影響が大きい。1つ目は抗体の濃度が高すぎること。2つ目はブロッキング剤が悪いことだ。他に、内在的なタンパク質発現量が低すぎるため相対的に非特異的な結合が増えてしまうこともあるが、今回はレビューアーが細胞を指定してしまっているので、それを変えることはあまり良いとは思えない。それに、TBS-Tとか、バッファーが悪くなっていても非特異的バンドが沢山出ることも経験上知っているが、バッファーは新しく作れば良い。ということで、抗体の量を減らし、ブロッキングを5%BSAに変えてみた。

その結果、なんとほぼシングルバンドの結果が得られた。マジか。ここまで劇的に変わるとは….元々、使っている細胞の対象タンパク質の発現が低いので、このタンパク質についてはすごく感度の良いECL(Enhanced ChemiLuminescence)キットを使って発色させているのだが、それを使ってしまうとどうしてもバックグラウンドが上がってしまうようだ。つまり、普通の感度のECLキットで良いようだ。やってみるものだなぁと思った。というか、こういうなかなか気がつけない基本的なミスっていうのは他にもあるんだろうなぁと思った。うちのラボはそういった基礎実験を明らかに軽視している。もし、「はじめにこの抗体のタイトレーションを行います。失敗したくないですから。」とか言ったら、経験上拒否されるだろうことが予想できる。そんな時間の無駄はやめろ的なことをうちのボスは言ってくるだろう。少なくても、首は傾げられると思う。でも、やっぱりこれは重要だ。こういうところにラボの能力が現れている気がする。ここのラボ(というかボス)の、こういうところが本当に嫌いである。

ちなみに、最近は抗体の性能自体も、10年前に比べて格段に上がっている気がする。アメリカだからだろうか。日本に輸入される過程で、抗体の力価って落ちるのだろうか….個人的に使い方に注意するべき抗体はAbcamやSanta Cruzから出ている抗体だ。10年前なら問答無用で1:1000だったが、最近では1:5000とかで使わないと濃すぎるものが多い。ちなみに、その辺り最も信頼できるのがCell Signaling Technology(CST)で、ウェスタンならば、おそらく全抗体を1:1000でうまくいくうように調製して売っている。だから、今のラボでも一番信頼している会社である。それに、ブロッキング剤もかなりの影響がある。日本にいるときなんて、森永とかどっかのスキムミルクを買ってきて使っていたが、明らかにウェスタンブロット用に作られたスキムミルクの方が、当たり前だが、良い。特にCSTのスキムミルクなんて、5%だと明らかにバンドの強度が落ちる。つまり、オーバーブロッキングなんだろう。3%がちょうど良い。BSAにしても、日本だとナカライテスクとかWakoとかからテキトウに安いのを買ってたけど、今使っているRocheの良いヤツなんかは、溶けやすいし、沈殿しにくいし、長持ちする気がする。

ということで、今後はリン酸化セリン残基の場合はこれまで通り3%スキムミルク、リン酸化チロシン残基の場合は5%BSA、デフォルトの抗体の濃度はCSTでは1:2000(AKT1とかPARPとか、明らかに1:1000では濃いものも多い。)、Abcamでは1:5000で使っていこうと思う。