Spectral Flow Cytometerのトレーニングを受けた

日付;2021/05/12(水)

以前、CyTOFを使ってTIL(Tumor Infiltrate Lymphocyte)のプロファイリングを行うということを書いた。これはその実験の続きについて。このための予備実験中に論文の再々々改定が入り、予備実験が完全に中断していた。そして先月にその論文の再々々改定が一段落したのでCyTOFの使用に関するミーティングを行った。しかし、 Immunological COREのヤツとオンラインのミーティングをした結果、もしかしたらSpectral Flow Cytometerのほうが良いかも、という結論になった。その主な理由は、この連中の実験系がヒトの細胞用であり、マウスは経験が足りないということだった。あと、主に対応してくれたヒトがアストラゼネカに転勤するため、というのも正味の理由としてありそうだ。結論を言えば、やっぱりCyTOFが良い気がする。使用できる抗体の量がFluorometoryに比べて多い。ということで、そのimmunology COREのヤツがマウスの免疫細胞を解析することに対してネガティブだったので、Spectral Flow Cytometerを使うという話になってしまった。

機種はCytek Auroraというヤツで、どうやら48カラー以上も(無理矢理??)解析できる代物らしい。通常のFlow Cytometerと比べて違うところは、Spectral Flow Cytometerは、各スペクトルに対応する検出器のアレイを使って、抗体に結合した蛍光色素の蛍光波長のスペクトルを記録し、そのスペクトルを用いて特定の細胞を同定する、という装置である。通常のFlow Cytometerにあるような、特定の波長を通すフィルターは使用しない。スペクトルの違いから特定の蛍光標識抗体(にラベルされた細胞)を認識するので、結果として感度がとても高くなるらしく、また励起波長のピークが似通っている蛍光色素だったとしても、それらのスペクトルが異なれば、抗体のTitration次第ではちゃんと識別することができるらしい。その結果として、感度がとても高くなるらしい。

Cytek Aurora

また、サンプルの準備も通常のFlow Cytometerの場合と異なる。どうやら、

  • ビーズも使えるが、実際に使う細胞を使うのが良い。自家蛍光とかも細胞に特異的だったりするから。
  • 必ず非染色のコントロールが必要。
  • 着目するタンパク質(もしくは分子)が陽性の細胞と陰性の細胞の50%/50%が必要。このコントロールを使って、陽性と陰性細胞における、ある特定の蛍光色素のスペクトルの差を取るらしい。
  • もちろん、Dead cell/Living cellも50%/50%。
  • 発現があまりにも低い細胞はコントロールにはできない。その場合はQC用のビーズを使ったほうがよい。
  • 蛍光色素の会社、ロット、新しさ、使うバッファー…などは、できる限りReferenceとTestで同じにすること。新しい蛍光色素と古い蛍光色素では、分子が壊れたり、古くなったバッファーの影響を受けたりでスペクトルが異なってしまうことがあり、これを検出してしまうかもしれないから。

とか、そんなところの条件があるらしい。まぁ、実際にデータ取得の様子を見ていたら一目瞭然だった。

さらに、抗体パネルの作成にも一癖ありそうだった。

  • Staining Indexが高い蛍光色素は発現の低いタンパク質につかい、低いものは発現の高いものに使用すること。
  • T細胞とかB細胞とかを同じようなスペクトルの色素で標識するのもやめろ。認識しにくいから。
  • PEとか、Qdotとかはあまりおすすめできない。Aggregationするから。
  • PEとかDAPIとか、ピークがブロードな色素はやめろ。検出器が専有されてしまって、他の色素が識別されにくくなるから。というか、DAPIなんか使うやついるか???
  • Dead cellの標識はZombie NIRがおすすめ(これはCytekのページにも書いてあったと思う)。

とかもあるらしい。結局、いくら識別できるからといって、似たスペクトルの蛍光色素は避けたほうが良い。

言うてもCytekのページにあるツール群は使いやすかったので、かなり面倒だが、抗体パネルをデザインするのもそんなに難しくなかった。概念が通常のFlow cytometerとすこし違っていて、そのためにサンプルの準備も違うが、理解していれば難しくはないと思う。それでいて大量のデータを得ることができるのでお得なのではないだろうか。しかしこれは逆に問題点でもありそうだ。どうやら、吐き出されるデータ量が膨大らしい。サンプル数x検出器数x蛍光色素数x….というデータ量になるので、Windows用にフォーマットされた2TBのストレージを準備するように言われた。

個人的に、解析が問題である。t-sneを計算するのに、いちいちかなりの時間がかかる。それに、t-sneで得られたクラスタリングの結果をある2群で比較することはできるのであろうか。そりゃあ比較くらいは隣に並べればできるが、如何せん数字がほしい。このあたりを勉強しないといけない….