自分のような研究者にも年に3から4本くらいインパクトファクターのついた論文のレビュー依頼が来る。しかし、なんか自分があまり大した研究者じゃあないことがバレているような気がしてくるのだが、本当に酷い論文に対するレビュー依頼しか来たことがない。言うても、こんな状態だったとしても、レビューアーの依頼を引き受けた以上はしっかりと仕事をしたいと思っている。
でも、いつも思うのだが、レビューの正しい方法ってのは何なんだろうか。博士課程でも、その後の研究所でも、レビューの方法について真っ当なレクチャーを受けたことはこれまでにない。自分が書いた論文で受けたレビューでの体験から学んでいるだけで、教科書的な理屈なんかを正確に他人に話せるかといえば、その自信がない。すごくフワッとしており、倫理的にこれをやったらいけないだとか、そういうことに基づいてのみレビューをしている状態である。そういうことで、この機に学術論文の正しいレビュー方法を勉強してみた。以下、箇条書きになっているヤツがこのCOPEの文書に書いてあることであり、その下に書いてある事は自分が思ったことである。
COPE; Committee on Publication Ethics
日本語で、出版規約委員会というらしい。ここが、学術論文の倫理やら研究不正(捏造・改竄・盗用など)について色々と検討してくれている非営利団体らしい。ここに、Ethical guideline for peer reviewersというヤツが書いてあるので、読んでみる。DOIもちゃんと取得してるっぽい(https://publicationethics.org/node/19886)。以下に重要そうなところをピックアップしてみた。
Being a reviewer(レビューアーになる)
Professional responsibility(専門家としての責任)
- エディターはちゃんとした専門家ところにレビュー依頼をしないといけません。
- レビューアーの素性(コンタクトインフォメーションなど)がしっかりしてないといけません。
Competing interests(利害の競合)
- Competing Interest(これはいわゆるConflict of Interest;COIのことと思う。)の可能性があるならば、それを明示しなくてはなりません。Competing Interestsには、個人的なもの、経済的なもの、知的財産的なもの、専門的なもの、政治的なもの、宗教的なものがあります。
- もし、過去三年間くらいの間に著者たちが自分と同じ施設に居たり、先輩だったり、共同研究者に近かったり、Grant holderだったりしたら、そのレビューは断らなくてはいけません。
- それに、意図せずとも自分の知見を広げるためだったり、同じような論文を準備していたり投稿中だったとしたら、そのレビューを引き受けてはいけません。
Timeline
- 締め切りは守りましょう。もし締め切りがキツいならば、そのレビューは受けてはいけません。
Conducting a review(レビューする)
Initial steps(初めの一歩)
- 論文を一通り読んでみて、よくわからないことがあればそこに戻って読む。
- Journalの許可なしに著者らに連絡をとったら駄目です。
Confidentiality(守秘)
- そのレビューをしているときはジャーナルの許可なしに他の者(上司とかメンターとか同僚とか)を勝手に関係させたら駄目です。手助けしてくれた人の名前はレビューのレコードに正式に含めないといけません。
Bias and competing interests(偏見と利害の競合)
- 国籍、宗教、政策、性別、商売上の問題や、その他の著者らのキャラクターに関わる偏見の無いレビューは重要ですが、もしそのような偏見の無いレビューを妨げるような事を見つけてしまったらジャーナルに知らせましょう。
- 同じように、もし自分が専門家としてそのレビューにふさわしくないならば、レビューが遅くならないように可能な限り早くジャーナル側に知らせましょう。
- ダブルブラインドの場合、もし著者らが誰か知っていたりしたら、利害競合が起きる可能性があるとしてジャーナル側に伝えましょう。
Suspicion of ethics violations(倫理違反の疑い)
- 研究や出版の倫理について普通じゃないようなこと;研究不正行為(Research Misconduct)を見つけたら、ジャーナルに知らせましょう。
Transferability of peer review(ピアレビューの結果を他のジャーナルに移行できるようにする)
- 出版社はおそらく他のジャーナルへ専門家からのレビューを移行するポリシーを持っています(これは、portable peer reviewだとか、Cascading peer reviewだとか言われます。)。それがジャーナルのポリシーにある場合、レビューアーは、そのレビュー結果を他のジャーナルへの移行を許可するかどうか聞かれます。もし、その原稿のリジェクト後に次のジャーナルに再投稿され、そして、同じ原稿に関するレビュー依頼を受けたときは、そのレビューアーは、次のジャーナルの指針に基づき、前のジャーナルとは別に新たにレビューしなくてはなりません。おそらく、次のジャーナルの審査とアクセプトの基準は異なっているかもしれません。審査の効率と透明性の観点では、新しいジャーナルに対して元のジャーナルの評価を伝える(元のジャーナルの承認を持って)のが適切でしょう。
この文章の頭は以下のようになっている。”Publishers may have policies related to transferring peer reviews to other journals in the publisher’s portfolio (sometimes referred to as portable or cascading peer review).”。これだと、出版社がレビューを別のジャーナルに移行することになるので、これは間違いではないだろうか。おそらく、”Publishers”ではなく、”Journal editor”かなんかが正しいと思う。出版社は、誤字脱字がないか確認しろ、くらいしか、ジャーナルや著者らにリクエストすることは無いと思う。これまでの経験上、出版社がレビューに関わってきたことはない。
Preparing a report(報告の準備をする)
Format(フォーマット)
- ジャーナルのフォーマットに従いましょう。
Appropriate feedback(適切なフィードバック)
- エディターはその原稿の弱みと強みに関して、フェアーで、正直で、偏見の無い審査を要求していることを忘れてはいけません。
- 多くのジャーナルでは、レビューアーは著者らに対するコメントと同じように、著者らへの非公開のコメントをエディターに対して送ることができます(レビュー結果は、著者らも見ることができるようにしなければなりませんが)。また、ジャーナルは、アクセプトなのか、改定なのか、リジェクトなのかをレビューアーに聞いてきます。その判定でも、レビューの内容と一致させなければなりません。
- もし、レビューアーがその原稿全体をレビューしていないようならば、どの部分を審査したのかを示さなければなりません。
- 著者らへの非公開コメントを残す場合は、著者らへの批判(denigration)や誤った報告(false accusation)をしてはなりません。
論文全体をレビューしないことってあるか??もしこれが許されるならば、初めの方で出てきた効率の向上やタイムフレームを守ることだってできなくなるし、そのレビューアーだって全部をレビューできないのだがら、引き受けたら駄目ってことにならないのだろうか。
Language and style(言語とそのスタイル)
- これは著者らの論文なので、レビューアーのスタイルに直して書いたりしないでください。改善するためのサジェスチョンは重要だけどな。
- それに、著者らの第一言語が、論文で書かれている言語ではない場合についても理解してください。敬意を持ってフィードバックしたってください。
Suggestions for further work(今後の研究へのサジェスチョン)
- 著者らの研究の厳格性(rigour)と質(Quality)に対するコメントがレビューアーの仕事です。もし著者らの研究が、解析が不十分なためにはっきりしない場合は、レビューアーは、どんな解析で結果がクリアになるのか説明しなくてはなりません。これは、現時点の研究の範疇(Scope)を超えてはなりません。どの追加解析が著者らの研究の強みをさらにサポートするのに必要なのか、はっきりさせてください。
これは、レビューする側が理解しておかなくてはならないことだと思う。なぜかというと、これに気を配らないでレビューをしてしまうと、全てを指摘しようとして、レビューに膨大な時間がかかってしまうし、個人の偏見であきらかに過剰な要求をしてしまう。実務的に、一番重要かもしれない。
Accountability(責任)
- レポートは、ジャーナルから他の人の関与が認めらていない限り、自分自身で作りましょう。
- アンフェアーで、ネガティブなコメント、コンペティターへの不公平な批判など差し控えましょう。
- 自分の研究への引用を増やすために、自分の研究の引用をリクエストするのは差し控えましょう。引用へのサジェスチョンはアカデミック(おそらく科学的っていう意味)で技術的な観点に基づかなくてはなりません。
- 提出を遅らせたり、ジャーナルや著者やらへの不必要な要求により、意図的にレビュープロセスを延長させたりしないでください。
- もしエディター自身がレビューをするようならば、それを明らかにし、だれか匿名のレビューアーがレビューしたことにしないでください。
博士課程のとき、その主査の先生からある論文についてレビューするような指示がきていたが、それはどうやらその主査の先生のAccountabilityに問題があったということだろう。おそらく、これは匿名性に隠れて外からはわからないことになっているが、小さい問題にしてもおそらくResearch Misconductになるようだ。その主査の先生は学生に手伝わせる場合はジャーナル側からの承認が必要で、手伝った学生はどの部分のレビューをしたのか、その業績のようなものに加えても良いような気がする。というか、加えてやれ。
What to consider after peer review(レビュー後に考えること)
- 可能であれば、改定版のレビューも引き受けたってください。それはレビュープロセスを速やかにします。
- 同じように、レビュー結果を提出した後に、元のレビュー結果に関係することで何か解ったことがあったら、ジャーナルに連絡してください。
- レビュープロセスの守秘性を尊重し、ジャーナルの承認がない限りその原稿について公表したりしないでください。
Peer review training and mentoring(ピアレビューの訓練と教育)
ピアレビューの技術を向上させるために、メンターシップに入ったり、トレーニングプログラムを受けてください。Publonsとかでも無料のオンラインコースをやってます(2022年3月27日の時点でリンク切れ)。
学生や若手の研究者にレビューさせる場合は、その監督者はエディターからの許可が必要です。もし学生が監督者の指導の元にレビューしたら、その学生はレビューの記録に加えなければなりません。
自分なりの結論
これらは学術研究における常識みたいなところである。結局、自分が受けて来た論文のレビューから十分に学べていたってことだったらしい。でも、たしかに○国、イ○○、東南アジア諸国などからの論文や、当然、日本からの論文でも、とても英語とも思えないような論文や、倫理なんて全く関係ないと言わんばかりのとんでもない論文もある。そういった論文に問題なく対処するためにも、こういうことって知っておかなくてはならないと思う。
あと、大学の教授に言いたいことがある。学生にレビューなんかさせるんじゃあない。この文書によれば、それはピアレビューアーとしてもエチケット違反だし、最悪の場合、ジャーナルのポリシーに触れることになる。
これはCOPEのこの論文について述べたものなので、以下に参考文献として引用しておく。
参考文献
Ethical guideline for peer reviewers, https://publicationethics.org/node/19886