アメリカのポスドクに応募する方法

日付;2022/03/19(土)
追記;2022/05/04(水)

自分はアメリカにポスドクとして留学するためのコネなどは持っていなかったが、結果としてポスドクとして留学でき、ちゃんと研究活動を行うことができた。しかし、漫然と日本の研究所で過ごしてしまったり、そもそも博士を得たばかりだったり、まだ修士課程だったり、もしかしたら、大学に勤めているひとたちに至っては、上司やメンターでさえ、まともに留学したことがなかったりすると思う。そういう場合は、留学先を見つけることさえどうやったら良いのかわからないと思う。実際、自分は、日本の国立の研究所で働いており、留学の必要性を解っていながらにして、その方法は良く解っていなかった。しかし、今思ってみればコネのない人間だった割にはその方法は正しかったと思う。正直にいえば、正しかったというか、それしかなかったとも言えると思う。なので、ここでは、コネが全くなかった自分がアメリカ(海外)に留学するときに行った就職活動を、最近の事情も含めて述べようと思う。というか、さんざん日本で研究してきたのに、海外のコネを全く利用できなかったってのは、どうかと思う。

アメリカに留学すると言っても、それは別に日本でポスドクの職に付くのとほとんど変わらない。以下がそのステップである。日本の、いわゆる企業への就職活動とは少し違うと思う。リクルートの学生ではないし、日本企業のような上辺っ面の社会とも違う。アメリカのポスドクという、100%実力の世界に行こうとしている。


事前準備;自分がやってきた研究を俯瞰し、自分の専門や強みは何か確定する

これは一番重要で時間がかかるところであるが、あんなに一日中ずっと研究をやっていたのに、いざこれをやってみるとなかなかできないものである。

自分の研究テーマを理解する

一体、自分の専門はなんだろうか。博士課程の学生なんかは、その研究テーマに一貫性があり、話題性があり、それゆえに自分が第一著者の論文が一歩でていれば、その研究について深く語ればそれで良いだろうと思う。一方、それ以外の人や、どこかの研究所や大学で研究員やポスドクとして既に働いている人は、複数の研究に関与していると思う。その場合は、研究テーマを取捨選択しなければならない。

自分を例にすると、自分は「がんの放射線抵抗性(がっつり基礎研究)」「乳がんの遺伝子診断(臨床研究)」という、ゾッとするくらい一貫性のない2つの研究テーマに携わってきた。共通することは「がん」ってだけで、やっていることや研究目的がバラバラである。はっきり言ってこれは良くない。傍から見ればキャリア形成に失敗しているとも言える。また、後者の研究機関は1年半くらいしかなかったので、深い内容を語れなかった。なので、後者は捨てることにした。前者だけのほうがしっかりした内容で発表できる。後者については「実はこんなのもやってたけど、ここでの内容とはかなり違うので述べないことにします。」とする。2021年12月に行った日本の研究所への就職のときにも「この研究はここ(面談をしている研究所)にはあまり関係ないので省略させていただきます」と言って、後者の研究は省いた。それで良かった。

自分の実験・解析スキルを理解する

次に、自分の持つスキルに着目する。自分ができる実験技術や解析方法を全部リストにして、各々をクラスタリング(似たヤツをまとめていく)してみる。出来上がったリストは履歴書の自分のスキルのところにかけるし、自分はどんな研究を行える人間なのかも見えてくる

募集を探す

以下がコネがなくても募集を探せるサイトである。みんな一度は聞いたことあると思う。

Nature Careers

https://www.nature.com/naturecareers

個人的なイメージではあるが、ポスドクへの要求が無駄に高い気がする。例えば「優秀なトラックレコードを持っており、遺伝子改変とドライの解析に習熟した者。」などである。こんなヤツ、少なくともアメリカには居ないと断言できる。アメリカは基礎研究だったとしても分業が進んでおり、ウェットとドライの実験に習熟させるような研究所や大学はない。アメリカでは両方に習熟できるほどの時間は研究者には与えられないと思う。大体、そのボスも両方は知らないし、なんだったらどっちも知らない場合だってある。なので、この要求は無視して応募して構わない。

たしか、自分は2つくらいここから応募して、一つは無視され、一つは選ばれなかった。本当に超優秀ポスドクを希望しているのだろう。

Science Career

https://jobs.sciencecareers.org/

よりアメリカらしいと思う。Nature Careersと同じよな感じだが、ちょっと敷居が下がったように思う。個人的なイメージだが。自分もここでアメリカのポスドク先を見つけた。

Researchgate

https://www.researchgate.net/

Nature CareersやScience Careersよりも世界中から広く募集を集めているように思う。しかし、なぜか、ここから応募する気にはなれない。情報は吟味する必要があると思う。逆に言えば、ここをよく使っているPIは、SNSをより使いこなしている可能性があるので、Linkedinなんかでも調べてみたら良いかもしれない。

JREC-IN

https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekTop

日本のアカデミックの募集ページ。自分は5年前はこんな便利なページがあるとは知らなかった。ほとんどが日本の募集だが、海外からの応募も掲載されている。ここを使っているPIは少なくとも日本の研究者を雇う利点に気がついている人だと思う。例えば、そもそも日本人のPIであったり、そのラボには以前(そして現在も)優秀な日本人のポスドクが居て、その利点をよく理解しているPIである。そうでなければ、こんな日本の募集サイトを知る由がない。日本のポスドクは、英語以外は他の国のポスドクよりも平均的にオールラウンダーという意味で優秀である。それに、英語やプレゼンテーションにしたって、初めは下手だが、そのうち慣れてくる。自分がアメリカの所属したラボでも、ここに募集を掲載していた。そういったPIは日本人の優秀さに気がついているのだろう。

ただし、そんなPIは准教授だったりするので、応募は少し考えたほうが良いかもしれない。以前別の記事で書いたが、アメリカの研究所や大学では准教授クラスと教授クラスにはとんでもない差がある。

Linkedin

実はここにも募集がよく載っている。ただし、ここの募集は、そのPIと何の関わりもない者が見つけることはまず難しいと思う。その理由は、Job postingのページではなく、このPIのPost(投稿)にそれが書いてあったりするためだ。なので、他の募集サイトでそのラボを見つけたら、次にLinkedinでそのPIの名前を調べてみたら良いと思う。

履歴書とレジュメを作成する

正直に書いたほうが良い。特に実験スキルなどで誇張があると少なからず後悔することになる。

履歴書では自分が著者の論文を可能な限り書いても良い。しかし、レジュメでは一著者の論文を中心に挙げたほうが良い。第一著者の論文なら、自分のコントリビューションが著者のなかで最も多いという意味なので、発表もウソ偽りなくできる。第一著者の論文がないという人は、そもそも博士課程を卒業できないので、そういうのは論外である。あと、個人的にはあまり論文のテーマが散らばっているのも良くない。自分がどんな分野の研究者なのか、これまでにどんな研究をしてきたのか理解してもらえなくなるし、自分でも説明しにくいし、説明するのも面倒くさい。選考ではみんなこのレジュメというヤツを主に見ているようなので、ここは自分を最も上手く表す情報を、ちゃんと吟味して書く必要がある。

実験スキルについては、論文リストとは別の意味で正直に書いたほうが良い。分子生物学にあまり詳しくないなら、そのスキルを省くか、その中でも知っていることだけを書くほうが身のためである。最悪なのが動物実験を知らないのに知っている風に書いたときである。アメリカのポスドクは、よっぽど余裕がある人間でなければ技術を教えてくれない。それも、履歴書に「知っている」と書いてしまった場合は、教えてもらえる率が限りなく低くなる。その応募者のレジュメは研究室中に配布され、みんながチェックする。なので、レジュメに「知っている」と書いてあったら、「知っているんでしょ?じゃあやれよ。」と来る。研究室に依るのだろうが、本気で良いジャーナルに投稿しようとしている研究室は、他人の世話をしている時間は本当にない。そもそも「協力する」ということはポスドクのオファーレターに書いてないので、そのあたりの協力はアメリカでは得られないと思ったほうが良い。ボスに言われれば、ようやく、かろうじて教えてやる、といった具合である。だから、知らないことは知らないと書いて、「教えてくれ」と初めからボスに頼んだほうが良い。日本ではなぜかこれが通じないが、アメリカではそれは通じる。というか、そうした方がマジで良い。それで選考から落ちたら、それまでである。

余談だが、他人にかまっているポスドクは、どこか集中していない者が多い。例えば、以下に述べるような人間である。

  1. 「ニューヨークに居た」という既成事実がほしいだけの人間。
    1. ニューヨークで遊びたいだけ
    2. 友達みたいに薄いコネクションを作りたいだけ
    3. 日本企業の駐在員
  2. そもそも端っから研究するつもりはなくキャリアだけのためにポスドクをやっている人間(そいう人間は1.とカブる)
  3. そのポスドクはただのつなぎで、何らかの別の会社を狙っている。

こういう人間と関わると結果的に損をするので要注意である。本気で研究するには、この1から3は本当に邪魔な連中である。ボスとのコネクションは即有効(それにしたって自分に責任を取れるまでの権限がなければ無意味に近い)が、ただの友達はSNSか酒を飲む関係が関の山である。

同封するレターも必要

応募に際して、応募元のPIに対して、レターを同封する必要がある。書く内容としては以下の通りである。

  • 自分の名前と所属などの紹介。
  • 応募をみてすごく興味を持った旨。
  • 自分はそのポジションに相応しいと思う理由。
  • 検討してみてくれないか?という旨。

これについては、応募先の研究テーマなどに応じて上手に変えないといけない。素早くその応募元の情報(研究内容や業績など)をインターネットで見つけて、その研究室の研究が自分の興味と一致していて、自分はそこで研究するのに如何に相応しいか、書く必要がある。

応募したら3ヶ月くらい待ってみたほうがよい

自分はScience Careersから2つの返信をもらっていた。まずはアメリカで所属した研究室、もうひとつはNorthwestern Universityの乳がんの基礎研究の研究室である。本当はNorthwestern Universityの方に行きたかった。その理由は単にネームバリューである。明らかにNorthwestern Universityのほうが優秀である。

しかし、その返信では「必ず返信するから待っとけ!」と言われて、その後2ヶ月くらい放置されてしまった。しかし、そんな口約束信用できるはずもなく、そして忘れたころに改めて返信があった。どうやら研究室の引っ越しをやっていたらしい。そういった事情を知っていたら、まだ状況は違ったかなぁと思う。まぁ、当時はそんなこと知る由もないのだが。その期間にアメリカで所属したラボに決まってしまい、Northwestern Universityの研究室を断ることになってしまった。

余談だが、今考えてみると、引っ越し直後の研究室というのは考えものである。研究室を立ち上げなければならないので、少なくとも2ヶ月くらい、もしかしたらもっと長い間は実験ができない。これは特にJビザでポスドクしている者などにとって致命的である。忙しい研究室だったり、ポスドクのことをちゃんと気にかけている研究室なら、それをそのポスドク候補者にいうはずである。しかし、言ってみれば、研究室を立ち上げるほどの資金があるということでもあるので、立ち上げに携わりたい人や業績以外でもいろいろな経験をしたい人には良いのかもしれない。

結局、良い募集なんてのは1年がかりで見つける必要があるのかもしれない。

まとめ

以上が応募するまでのステップである。自分の研究分野やスキルの理解は、新しいポジションに応募するときはもちろん、日常の研究生活でも必要になりかねない。しかも、ポスドクに居る人だったらいつ必要になるかわからないので尚更である。