Early Warning Journal Listに選ばれている怪しい論文誌

日付;2024/03/20(水)

Natureで気になる記事を読んだ

Chinese Academy of Scienceの図書館が、Predatory Journal(ハゲタカジャーナル)や中国の科学研究コミュニティーにとって有益ではないとされる論文誌(ジャーナル)のリストを公開した、という記事をNatureの記事(https://www.nature.com/articles/d41586-024-00629-0)で読んだ。どうやらこれはEarly Warning Journal Listといって、Chinese Academy of Scienceは毎年公開しているリストらしい。そして初めて、Citation Manipulationという一種の研究不正を行っている可能性のあるジャーナルにフラグを立てた、ということだそうだ。そんなリストがあったとは自分は全然知らんかった。

どんなリストなのか

このリストは、Chinese Academy of Scienceの図書館員、言うてもそれに関連する学術研究を行っている研究者達みたいけど、彼らは中国研究者や管理者からのフィードバック、ディスカッション、Web of Scienceなどを解析することでこのリストを作成したらしい。その指示や方針などが中国政府や省庁から示されており、研究不正(Academic misconduct)に関して議論して、そのリストを国を超えて研究機関でシェアできるようにすることが目的のようだ。このリストはけっこう影響が大きいようで、ジャーナルがこのリストに登録されると中国研究者からの投稿数が落ちるようだ。投稿数が減るため、次の年にはそのジャーナルがそのリストから外れるらしい。そのくらい影響が大きいリストのようだ。

今年(2024年)におおきく変わったのはその指標らしい。以前はHigh、Middle、Low riskとなっていたところを、なぜそのリストに載ったのかという理由、例えば、Citation Manipulation(レビューアーが、自分の論文を引用しろと指示すること等、だと思う。)とか、Paper mill(論文数を稼ぐためだけの論文)とか、Reviewer mill(レビューアーや、特にエディターなんかの実績を得るためだけのレビュー)とかと示すことにしたそうだ。こういった、よく考えてみればどうやって判断したらいいかわからん問題なんかは、ソーシャルメディア、For Better SciencePubPeerなどを解析したようだ。また、前年と比較した大幅な出版数増加は、リスク因子ではなくしたらしい。その理由として、以前は、出版数の急激な増加は、論文のQCをしっかり出来るプロセスが整っていないのに出版数を増やしている、と見なしていが、オープンアクセスの時代には論文の数がどんどん増えるのは自然なことなので、このリストからはこういった自然のプロセスを乱すようなことはやめた、ということだ一方、今のところテキスト自体の解析は行っていないらしい。これは将来的にAIツールの問題を示唆しているのは間違いなさそう。これは、そういう予定もある、ということだろう。そして、その論文誌が関連する出版社にも、そのリストに載った理由などを説明を行ったらしい。で、その出版社からその理由についてリーズナブルな回答があれば、そのリストからそのジャーナルを除く、ということをおこなってきたようだ。そういうことを行うことで、もともと50くらいあったジャーナルが24まで減ったようだ。

Natureからの質問もなかなか攻めていて面白いところである。Natureはなんと「お前がリストした論文誌は、中国研究者がいっぱい投稿してるヤツやんか。なんでこれが問題だったん??(“You also flag journals that publish a high proportion of papers from Chinese researchers. Why is this a concern?”)」と聞いている。この質問への回答を読んで、あまり賢くない自分は「なるほどなぁ…」とか思ってしまった。その理由は「なんでかって言うと、中国研究者がいっぱい投稿している論文って、論文誌に依ってはめっちゃ掲載費用高額やねん。うちらって発展している途中(because we are developing countryと書いてあったが、これは一般的な発展途上国とは別の意味に見える。)やん??だから研究費とかも正当に使いたいと思ってんねん。ほんで中国研究者ばっかり投稿している論文が有った場合は、うちらは『それやったらもっと安いローカルなジャーナルでええんちゃう?』って教えてあげれるやん?中国研究者にとっても、そんな高い高い掲載費払ってインパクトの低いヤツにださんでええってことがわかるしな。いうても、これは中国にとっても挑戦的なんやけどな。」だそう。ふーんって感じである。

なんか怪しいなぁと思ったところ

2箇所ある。一箇所目は、”What changes did you make this year?”の章の2段落目の”In previous years, we included journals with publication numbers that increased very rapidly. For example, if a journal published 1,000 articles one year and then 5,000 the next year, our initial logic was that it would be hard for these journals to maintain their quality-control procedures. We have removed this criterion this year. The shift towards open access has meant that it is possible for journals to receive a large number of manuscripts, and therefore rapidly increase their article numbers. We don’t want to disturb this natural process decided by the market.”というところである。上述の太字にした部分である。オープンアクセスが進んできていることと、ミスコンダクトを予防できるQCプロシージャーは別と思うのだが….オープンアクセスが進んできて論文投稿数が急激に伸びるのはわかるが、だからといって、それに比例して正当なQCプロセスも出来上がる、というのは、むしろ可怪しくないか?それが出来ないから駄目だよってなると思うのだが。では、その増加した論文数を正当に評価できるレビューアーの数も、比例して、例えば10倍になるのだろうか。

二箇所目は、”You also introduced journals with abnormal patterns of citation. Why?”の章の最後の部分”Perhaps it is unrelated, but on 13 February, MDPI sent out a notice that it was looking into potential reviewer misconduct involving unethical citation practices in 23 of its journals.”の部分である。これを正当と捉えるか、どっぷり癒着と捉えるか…MDPIは、こういったレビューアーによる不正が無いように、今後はTransparencyとIntegrityの向上に努めますよ、と言っているが、もう今さらである。過去の振る舞いが、そんな当たり前のことを実践することだけで帳消しになるならば、警察は要らないっていうことである。

やっぱりMDPIか

では、どんな論文誌がリストされているのか。ここ(https://earlywarning.fenqubiao.com/#/en/early-warning-article-2024)でみることができる。

1つ目。

Cancers

MDPIやん。

2つ目。

Diagnostics

やっぱりMDPIやん。

知ってた。CancersはPubmedのコンタミ源でもあるので、早急に駆逐されてほしい。MDPIは駄目。それに、リストにはFrontiersもちゃんと入ってる。言うても自分もFrontiers一本持ってるが、個人的には、残念ながらFrontiersも駄目である。Frontiersに意気揚々と投稿してしまったことに対しては、けっこう後悔している。というか、リストされている論文のうちFrontiersの論文が少ないのはなぜだろうか。一方、それ以外にもWillyやElsevier(SicenceDirectのあれ)なんかもあるので、やっぱりちゃんと解析はしたんだろう。話半分で読んでしまった感があるが、また、おそらくChinese Academy of Science主導ではあるのだろうけども、これはけっこう信頼できるのでは無いかと思っている。Cancersがばっちりと載っていることを考えてみても、直感的にも合っている可能性は高い。そして、このリストを作成した研究者らによれば、来年以降は中国研究者らのCancersやDiagnosticsへの論文投稿が減りまくるはずであり、それ以降も、投稿を見直すべき論文誌及び出版社ってことになり得る。具体的には、CancersやDiagnosticsは、”Early Warning Journal List”(早期警戒論文誌リスト)として名に恥じぬハゲタカジャーナルだった、とみなすことも出来ると思う。中国主導でこういったノイズのようなジャーナルを排除できるのは非常に面白いと思う。そうなってくると、いよいよMDPIが排除される時が来たかなって感じである。

このEarly Warning Journal Listを受けたMDPIのレポートなんて、タイトルからして真っ黒である。”Potential Misconduct by Reviewers Involving 84 Papers”だから。もうこれ、MDPIは研究者の紛い物や学生を食い物にして金を荒稼ぎしていたこと自分で認めてるってことじゃあないのか。「バレたら謝ればいいんだよ。自虐的にReportしたら、なんかそれっぽく見えるんじゃね?うちらは悪いレビューアーの被害者ですよってな。ま、適当にやっとけ!どうせお前らは俺達がいねぇと業績なんか稼げねえよ。」って感じだろうか。でも、逆に言えば、わかっているのにそんなジャーナル利用する研究者側が悪いってこととも思う。

まとめというか結語というか

このリストはある意味では非常にいい指標であると思う。例えば、何か聞いたことのないジャーナルからレビューアーの依頼が来たけど、どうしよう、とか、そういう場合である。言うても、Reviewes MillやPaper Millの疑いだって否定できないわけなので、MDPIやFrontiersからのレビューはもはや受けることさえ危険であるのは迷いようがないわけだが、何かしら迷ったときにこのリストを検索することでそのジャーナルや出版社が信用できるかどうか判断する材料になる。

昨今では怪しい論文誌や、研究結果がどんどん増えてきているので、こういった「怪しい論文誌リスト」と国として作ってもらえると、こっちとしても非常に助かる感じがする。日本もやればいいのに。こういうの文科省版とかも見たいと思う。あ、アイツらじゃ無理か。というか、そうやって考える力も実行力も、日本のアカデミックには無いとは思うが。