論文がアクセプトされる(その1)

日付;2021/07/08(木)

これまで投稿してきた論文がようやくアクセプトされた。論文誌はNature Communications。1回目の投稿からアクセプトまで、合計で4回も投稿し、約1年も費やしてしまった。そのうちの2回はかなり厳しいレビューアーとのディスカッションだった。そして4回目の投稿では共同研究者側の結果のデータの紛失(データが部分的にしか残っていなかったらしい。詳しくは聞いていない。)で結果を一つ取り下げるという不備もあったが、なんとかアクセプトまで漕ぎ着けた。うちのボスにとっては本当に災難だったかもしれない。この1年の間に、「論文になっていないので、全結果の信頼性が低い」という理由で、グラント(おそらくR01)に落ちてしまったらしい。ある意味では自分の結果が出るのが遅かったことが原因という解釈もできるが、引き当たってしまったレビューアーや研究自体の質も含め、論文のアクセプトまでに1年もかかってしまったことも、その根本的な理由であると思う。

自分は過去に一度、このジャーナルから一発リジェクトされている。

やっと履歴書のPublicationの項目にこの論文のことを書くことができる。そしてやっとこの自分のブログにも記録できる。言うても、Research Squareという、ジャーナルと提携しているプレプリントサーバーみたいなサイトに既に掲載されているので、特にこの研究が初めて世間に出るというわけではないのだが。1年間もプレプリントのまま野ざらし状態だったので、本当にストレスだった。あのプレプリントサーバーというヤツ、本当に嫌いだ。プレプリントなんて査読中の論文なんだから、公には使えない。あんなもの著者の都合だけを考えた無用の長物だと思う。公に使えないという以上、SNSの情報に毛が生えた程度であると感じている。それに、重要(と思っている)な発見がネットに野ざらしにされるのだから、第一著者や責任著者だったら、それはそれはストレスだと思うのだが。どうなんだろうか。実際、グラントに落ちているわけなので、やっぱり業績や研究成果として認められることはほとんどないと思う。上記のように、レビュー期間が遅いのは、半分は自分の責任(もう半分はクジ運)なので、レビュー期間が長すぎるから、という理由でトリッキーな業績づくり(プレプリント)をするのは、やっぱり良くないような気がする。

ということで、やたら長いこと時間を費やしてしまったので、アクセプトまでの経緯を述べる。


2020/7/14(火)Cancer Discoveryに投稿

一撃でリジェクト。異論はない。


2020/7/20(月)Nature Communicationsに投稿

投稿から1ヶ月くらいで、まさかの改定の要請。自分は「この論文はCancer Researchレベルだろうなぁ」と思っていた。全員がそう思っていたように思う。その理由にもなるかもしれないが、原稿はCancer Discoveryの投稿時のままNature Communicationsに投稿した。今回はかなりラッキーだったのかもしれない。しかし、都合の良いことが続くわけもなく、レビューは無茶苦茶キツかった。3人のうち1人のレビューアーが厳しすぎた。内容を簡単に述べると;

  1. ウェスタンブロットとsiRNAを用いた実験で細胞株を2つ増やすこと
  2. 対象とする新規薬剤の主な標的タンパク質のすべてについて、用いた細胞株、オルガノイド(とか言いつつ、これはただの三次元培養)、動物実験において、その機能が抑制されていることを証明すること(基質のリン酸化が抑制されていることを証明すること。)
  3. IVISを用いた実験において、統計的にマウス数が足りない。増やして再実験すること。

だった。めちゃくちゃキツかった。細胞周期の解析以外で、細胞数を増やしてこれまでの結果を実質全部やる必要がある。なんてこった。論文の再提出の締切が3ヶ月以内だった。しかし、Nature Publishing Groupは「COVID-19で仕事が制限されていることに柔軟に対応してやろう」と言っていたので、それに甘んじて締め切りを伸ばしてもらい、なんとか4ヶ月くらいで完了するこができた。何度ボスと揉めたことか…思い出すだけでゾッとする。マジで3ヶ月休日がなかった。COVID-19の制限中に全力で働いているヤツなんて、医療従事者以外では自分くらいだったんじゃあないだろうか….

時間をかけてしまったために、この時点でエディターが変わったらしい。


2021/1/20(水)Nature Communicationsに再投稿

なんとか実験を4ヶ月で終え、その後、編集やら何やらで再投稿。そして、また改定の依頼。この時点で3人中2人のレビューアーを倒す。そして3人目。また食い下がってきた。要求は上記の2についての要求だった。それは;

  1. 細胞のDerivativeでも上記2の実験をやれ。

これはそんなに難しくなく、終了。そして再々投稿


2021/3/10(水)Nature Communicationsに再々投稿

このときからレビューアーからの要請がクレイジーになってきた。その要求は;

1.薬剤がターゲットの機能をちゃんと抑制していることを証明するために、そのターゲットのタンパク質の自己リン酸化もやれ。

は?なんか、ちょっとおかしい気がするのだが….もう既にターゲットの機能抑制は散々出している。それに、それらのタンパク質の自己リン酸化は、実際に機能に関与しているのか、よく解っていないものだってある。抗体だって売ってないものが多い。

個人的にはこの時点でエディターに「このレビューアーなにかおかしいぞ!」という必要があったのではないかと思っている。それでも売っている抗体で、バンドが汚いながらもなんとか結果を出して、再々々投稿する。このあたりから「またリバイスしないと行けない気がする…」とかビビっていた記憶がある。流石に進展のない実験は面白くなかった。この研究自体が応用研究であまり面白くないのに、それに輪をかけて、全くもって面白くなかった。たしかこの間にまたエディターが変わったらしい。


2021/7/1(木)Nature Communicationsに再々々投稿

予想通りレビューアーから改定の要求が来る。そして今回は、エディターからももはや出版に向けた要求が届いた。面白いことにエディターからのメールには「Nature Publishing Groupのポリシーにより、レビューアーからの要求には答えないといけない….」と書いてあった。しゃあなし実験だったのだろうか。レビューアーからの要求は;

  1. 期待していたのは著者らがこの改定で使ってきた細胞ではなく、細胞のDerivativeでの結果なんだよ。それを載せてこい。
  2. それに自己リン酸化部位に対する抗体が買えねぇのなら質量分析をやってこい。

百歩譲ってもこれが正当な要求ではないように思う。その理由は、うちらは既にターゲットタンパク質の機能抑制を示しているし、だれが質量分析の金や時間を捻出するのだろうか。それにそもそも、1については前回のレビューに書いていないことを要求してきている。これについて共著者もほとんど納得していなかった。共著者のうちの一人で、とても世話になった共同研究者と話したときに、「こいつ、実験したことあんのかよ。誰が金だすんだよ。こんなん簡単じゃあねぇんだぞ。COVID-19でずっと家にいるから暇なんじゃねぇのかよ。こんなの言われたことねぇぞ。」だった。同感だ。

それに、エディターからの要求は、以前書いたように;

  1. 結晶解析の結果がリポジトリに登録してあることを確認すること。
  2. 全データ(数値、ブロット)のアップロードすること。
  3. 詳細なp値の記載すること。
  4. 全統計(何を使ったか、両側検定かとうか等)を記載すること。

だった。個人的には全く問題ではなかったが、共同研究者先では問題だったらしい。諸事情によりデータを一つ取り下げなくてはならなくなった。

そしてなんとか再々々投稿するが、その次の日、以下の理由で返されてしまった。その理由は;

  1. Supplemental figureのFigure legendを図中に含めること。
  2. 結晶解析のデータがオープンになっていないので、オープンにすること。

問題だったのが、2で、もう一つの共同研究先から「それはイレギュラーで普通なない。通常はアクセプト後にオープンしなくてはならない。これはエディターに問い合わせたほうが良い。」という反論がでる。そしてそれをエディターに伝えたら、なんとOKで、その次の日の夜にアクセプト。なんだそれ。

このエディター、今月はオフィスに居なかった(バケーション?)らしく、今はそのためにさっさとアクセプトになったのじゃあないかと思っている。


マジで、キツかった。まぁ、いい経験になったわ。

次の投稿で、この論文投稿で遭遇した問題点について述べる。

2,021/07/15(木)追記;今日、Journal Citation Reportsを見ていて思ったのだが、Nature Communicationsのインパクトファクターって、Cancer Researchとあんまり変わらんらしい。それだったらもう今後はCancer Researchで良くないですか。