FLASH照射について(その6)

論文

Buonanno M, Grilj V, Brenner DJ. Biological effects in normal cells exposed to FLASH dose rate protons. Radiother Oncol. 2019;139:51-55. doi:10.1016/j.radonc.2019.02.009

目的

前臨床試験の結果は有望であるが、Sparing effectの分子メカニズムは未だ解析する部分が残っている。そこで、この研究では、コロニー形成法、H2AXリン酸化を解析し、後期(晩期)の影響として照射された細胞やそれらのProgenyにおけるPremature senescenceとTGF-bの分泌について解析した。

概要

陽子線(5.5 MV、0.05Gy/s、100Gy/s、1000Gy/s)をヒト肺線維芽細胞株IMR90細胞に照射し、コロニー形成法による生存率、gーH2AXリン酸化(WB)によるDNA損傷形成、照射1ヶ月後のb-gal染色によるSenescenceの発生、TGF-bの発現を解析した。その結果、FLASH照射はIMR90細胞の生存率、H2AX線リン酸化に影響は与えなかった。しかし、1ヶ月後のSenescenceの発生と、TGF-bの発現はFLASH照射群で有意に低下した。

問題点

特になし。

結論

結論は「S」で異論はない。いつも問題となる線量測定の結果は依然としてないが、その代わりにH2AXのリン酸化をWBで見ており、それが各線量でほぼ同じことが示してある。筆者らは高線量領域ではH2AXリン酸化が飽和してしまったことをDiscussionに書いているが、低線量領域でちゃんとリニアーに増えているし、同じ吸収線量で同じレベルでH2AXがリン酸化しているので、信頼はできるのではないだろうか。

それに興味深いこととしては、短期の細胞死(コロニー形成法)やDNA損傷(H2AXリン酸化)ではなく、長期の影響としてSenescenceとTGF-bの発現が従来の線量率の照射と比べて異なるということだ。現時点では、「超高線量率FLASH照射により細胞内の酸素分子が発生するラジカルとの反応で使われてしまって、従来の線量率での照射で起こる酸素ラジカルによるDNA損傷の固定が起こりにくくなるから、特に酸素分圧の高い正常組織でSparing effectが起こる」とよく説明されているようだが、この研究の結果が本当ならば。この仮説は少しおかしいことがわかる。もしそうだとしたら、このSparing effectによりDNA損傷の固定が起こりにくいはずである。しかし、この結果では、生存率やH2AXのリン酸化は通常の線量率の照射と同程度であった。正直、これが正しい結果なのではないかと思う。上述したようなこれまでに言われているようなSparing effectのメカニズムは、どこか怪しい。都合の良いように解釈しただけな気がする。この点が、自分がこの分野をこの上なく怪しく思っている理由である。むしろ「なぜかはわからないが、炎症性の分子の発現が低いので、Sparing effectが起こる」の方が個人的に理解しやすい。ただし、このSenescenceが低いというのが、難しいところだと思う。これは結局のところ細胞死であるが、その一方で、短期的にはコロニー形成法の結果が変わっていない。この著者らの記述にあるように、長期的な娘細胞たちに影響するのだとしたら、そのFLASHが作用するターゲットはなんなのだろうか。娘細胞ということは、細胞分裂の正確性だろうか。ということは高LETと低LET放射線照射時のように、利用されるDNA修復機構(NHEJやHR修復のように)がすこし違うということなんだろうか。DNA損傷が飽和してしまうことなにかに作用しているのだろうか。この先はRARAFのグループにがんばってもらって、解明されることを期待しようと思う。

やっぱり、どんな場合にせよ、正確に線量を評価しないことには、これらの疑問に答えることは難しそうだ。