日付;2022/04/28(木)
2022年5月から日本での研究のキャリアを再開する。2022年4月末の時点ではいまいち予測できないが、おそらくこの施設では自分で研究助成金を獲得し、自分の研究は自分の責任でマネージメントすることになるだろうと思う。当然だが、得られた研究結果は、いずれ何らかのジャーナルに投稿することになるだろう。そのときのために、自分の経験から得られた個人的に絶対投稿したくないジャーナルについて述べておこうと思う。
その背景
というのも、知っている研究室の者(後輩)が、なんとも微妙なジャーナルであるCancersに、「は??これだけ????」と思う結果を投稿していた。しかも、彼は確か放射線治療の医学物理に関わる専門だったはずである。放射線生物学を専門としてやってきた自分から見てもあまりに酷い、というかPoorである。内容はいくつかのがん細胞株と正常細胞株の陽子線と炭素イオン線感受性を測定し、その結果をLQモデルにフィッティングし、そのパラメータを比較したものであったが….これ以上は言うまい。そのグループの教授が責任著者ではなく、その後輩が責任著者であったので、自分の研究をその結果で良しとし、そのジャーナルに投稿することを自分の責任で決めたということなんだろう。
どうもそのグループの知り合いたちは、このCancersに投稿することの味を占めたらしい。他にも、ICBと放射線の併用などに関する成果をいくつかこのCancersで出版していた。確かにこのCancersというジャーナルは、Impact Factor(IF)も案外高く、最近良く見るジャーナルではあるが、本当にそれで良いのだろうか。個人的にScientific Reportsで失敗している(と自分はすこし後悔している)身としては、投稿するジャーナルは、それこそIFなんかでは決めることができない様に思う。もし投稿論文の選択基準が「IFが高く、査読が簡単」というものであったら、それはもう科学(サイエンス)ではないのではないだろうか。実際、内容もこの上なく科学研究ではなかったし、これだから医学物理とかのコメディカルは嫌いである。
ということで、以下に自分だったら投稿したくないジャーナル(論文誌)について述べることにする。なお、Pradatory Jouralはキリがないので述べない。どこかで聞いたことがある、もしくは、別に詐欺的な事をしていないけど、信頼できないだろうジャーナルについて述べる。1位が個人的に一番投稿したくないジャーナルである。これは個人的な意見である。人によって考えかたは違うだろうと思うし、場合によってはそのジャーナルが適することもあるだろうと思う。
第1位 Oncotarget
堂々の第1位は、言わずもがなOncotargetである。これは確か2016年からWeb of Scienceからも削除され、今ではIFさえ付いていない。さらに悪いのは、COPE(Committee on Publication Ethics)からも、DOAJ(Directory of Open Access Journals)からも削除されている。これはすなわち、公に、世界中から良くないジャーナルという認定を受けたようなもんである。いくらPubmedにインデックスされているからと言っても、自分の大事な研究結果をこんなジャーナルに投稿する者は皆無だろう。居たらその人の研究者としての品位を疑ってしまうし、「なんでこんなジャーナルに投稿してしまったんですか??自分の研究ゴミだと思ってるんですか??」と聞いてみたいところである。
そしてもし自分の研究がこのジャーナルに投稿することになってしまったら、数週間は立ち直れそうもない。そのぐらいOncotargetは問題外と言える。
第2位 Cancers, Cells(MDPIのジャーナル全部)
背景でも述べたとおり、MDPIのジャーナルも勘弁してほしい。実際に自分では投稿したことはないが、正直言って投稿しなくてもそれはわかる。もう見るからに怪しい。まず何が怪しいって、ジャーナルのタイトルが詐欺みたいなもんである。特にCells(MDPI)なんて、Cell(Cell Press)のイミテーションに見えるし、Cancers(MDPI)にしたって、CancerというAmerican Cancer Society(ACS)というどこかで聞いたことある団体の昔からあるジャーナルと似ている。Nature Publishing Groupというブランドを振りかざすScientific Reportsと同じくらい怪しい。いや、ジャーナル名が他に近しいものがない分、Scientific Reportsの方がマシに見える。
そして調べてみると、どんどん怪しい。まずレビュープロセスが良くないらしい。Googleに単に「MDPI」と入力して検索すると、ここ(http://scienceandtechnology.jp/archives/31893#MDPIMDPIJCR201820196)とか、こことかが引っかかる。後者は英文校正の業者のeditageである。さらにインターネットを調べていると、レビューアーのコメントを無視したレビュープロセスも行われることもあるようだ。一方、COPEにもDOAJにもPubmedにもインデックスされているので、この2誌(CancersとCells)については問題ないのかもしれない。
もうひとつここの論文が嫌いな理由は、よく見る割に読んでみるとクオリティーが低いためだ。前述したとおり後輩の論文もそれはそれは Poorなもんだったので、その程度の論文でも採用してしまっているのだろう。また、レビューがかなり多い。そんな他の著名な論文誌のコピーみたいなレビューなんか、必要ない。
第3位 Frontiers in Oncology(というか、Frontiersのジャーナル全部)
この論文誌のレビュープロセスは、他のジャーナルと少し違っていたのを覚えている。おそらくSNSの形式のそれを採用しているのだろう。レビューアーとより直接にコメントのやり取りができるようなレビュー形式だった。具体的にどんなフォームでのレスポンスだったか定かではないが、レビューアーの「このコメントに対してレスポンスする」というのを、もはやオンライン上で完結できるような感じだった。それがこの論文のレビュープロセスの特徴では無いかと思う。でも、正直自分は責任著者じゃなかったし、そんなインタラクティブにコメントのやり取りをできる権限がなかったので、結局、より一般的な形式でレビューアーのコメントに対して回答した。
ここのもう一つの特徴は、このFrontiersの中でLoopというResearchgateみたいなサービスをやっていることである。これについては特に何の問題もないかなぁと思う。見ていたら「ふーん」って感じである。
論文誌の利点としては、その論文がどのレビューアーにより査読されたのか、全部公開されるということである。もしその論文で何か問題があったら、そのレビューアーもかなりのダメージを喰らってしまうだろう。おそらくレビューアーはそうならないようにしっかりと査読するので、IFに反して論文の質としては悪くないのではないかと思う。
しかし、このジャーナルもScientific Reports同様、老舗の専門誌のほうが、同業者の目に留まる分マシではないかと思う。もうひとつこのジャーナルをいまいち好きになれない理由は、自分が一度もFrontiersに載っている論文を参考にしたり、引用したりしたことがないためである。きっとこれは世間一般の事なんだろう。だからIFも中途半端である。
ただし、おそらくこれもMDPIのジャーナルと同じで、おそらくレビュー論文を多く掲載することでIFの上昇を狙っているようにも思える。もしかしたら、論文ごとのレビューアーの顔と名前と所属を公開しているのは、こういうことの隠れ蓑にするためなのかも知れない。
第4位 Scientific ReportsとかiScience
Nature Publishing Groupのジャーナルのカタログから、なぜか別枠になっている。これは自分も投稿の経験があるので、そちらを読んでほしいところである。まず個人的にがっかりしたのが、レビュープロセスである。自分が投稿していたときは、ジャーナルが公式に述べているような「Scientificであれば、アクセプトしたろ。」という審査基準ではない。専門分野であれば、知ったような教授か専門家のところにいき、その専門家も当然自分らことを知っているものだから全力で審査するということが起こる。実際はレビューアーは誰なのかこちらからはわからないので、これは定かではないが「こういうこというのって、あの人だろ」となる。また、審査期間はScientific Reportsが謳っているように早くなく、逆にすごく遅い。それだったらIFが低くても伝統があって、同じような専門家が沢山居る老舗ジャーナルに投稿したほうが良い。そっちのほうが目に留まる確率が増える。もちろん、一体何のジャーナルに投稿したほうがよいかわからないようなコンテンポラリーな応用分野であればScientific Reportsで良いだろうとは思う。
iScienceはCell Press版のScientific Reportsである。こちらもScientific Reports等と同様、おそらくレビューの厳しさに対する時間的、経済的、改定の難易度のコストが悪いのではないだろうかと思う。というか、Cell Pressのジャーナルに投稿できるまでの結果があるのであれば、何か他の良いジャーナルを狙ったほうが絶対に良いに決まっている。
第5位 Plos One
これは言わずと知れたオンラインオープンアクセスジャーナル(OAJ)の先駆けジャーナルである。FrontiersもScientific ReportsもiScienceも、ここの運営スタイルをパクって投稿者から金を巻き上げていると言っても差し支えないだろう。
IFが低すぎて投稿する気にもなれない。自分はここのジャーナルを引用したことがない。ということは、IFが低いので就活やプロモーションでプラスに考慮してもらえないだろうし、これまで大金と多大な労力をかけて得た研究成果が誰にも引用してもらえないなんてのは、単純に嫌だ。
しかし、不思議と悪い評判を聞いたことがない(ただ知らないだけ??)。それに、もともとIFやらクオリティーの閾値がけっこう低かったので、これ以上は下がることがないし、このジャーナルに高望みもしていない。なので、正直投稿することになった場合、その研究結果はPlos Oneに合ったクオリティーに落とし込まれているかもしれない。だから、この論文はハナから投稿する気にはなれないものの、MDPIやSciectific Reportsのような嫌悪感は特にないように思う。
まとめ
こうやって「このジャーナルには投稿したくねぇなぁ」というジャーナルについて考えてみると、以下のようなある共通点があることに気づく。
- 後々の引用につながらないし、自分でも引用したことがないし、参考にしたこともない。
- レビュー期間が最短で何日とかを謳っているが、実際はめちゃくちゃ査読期間が長くなる。これはもしかしたら基礎医学生物学の分野での話かもしれない。
- オンラインオープンアクセスジャーナルであり、値段がすごく高い。
- 何かグレーな行為をやっているため、しっかりしたピアレビュー(専門家による査読)をしていることを誇張している。
- レビュー論文がかなり多い。
いくらIFが高くても安易にこういったジャーナルに投稿したらせっかく頑張って出したデータが勿体無いことになってしまう。自分があるしっかりした専門分野に居るのならば、例えIFが低くても老舗の専門誌に投稿したほう良いと思う。そっちのほうが、少なくとも同業者には読んでもらえると思う。