日付;2023/07/08(土)
最近、立て続けにFrontiers in immunologyからレビューの依頼が2つ(5月11日と7月6日)あった。5月の依頼はエディターからのメールに返信することをすっかり忘れてしまった。本当に申し訳ない。やっぱり仕事を後回しするのは、本当に良くないと思う。反省している。7月6日のメールにはちゃんと返信した。依頼のメールに載っているアブストラクトをちゃんと読んだ結果、そして、自分の専門的にも今回はレビューすべきではないと思ったので丁重に断っておいた。
しかし、その依頼のメールを読み、そしてそのエディターのバックグラウンドをインターネットで調べているうちに、はっきり言ってこのFrontiersという出版社は良くないことの確信を得てしまった。それがこのポストのタイトルの由来である。そのことをここで書こうと思う。
どんな内容のメールだったか
これはとても普通で、その招待メールには「お前の専門とマッチしているから興味あるでしょ?レビューしてくれよ。このメールにリクエストしたりしてくれよな!色々とサポートするから。」と書いてあった。
すごく普通に見える。しかし、一般的なレビューアーへの招待メールとは違っていた。一般的に著名な出版社からのレビューアーの招待であれば、「レビューアーとして受けてくれるならば、ここをクリックすれば全文をみることが出来ます。レビューアーとして引き受けることが出来ないならばここをクリックして、理由を述べて、代わりのレビューアーを示してください。」ということがメールに書いてある。このFrontiersのレビューアーの招待メールは、その一般的なフォーマットでは無かったということだ。それは単にこちらがメールで返信すれば良いだけの話なので、一般的ではないからといって問題とはならないと思う。
そして親切にも、著者全員のフルネームと、アブストラクトが載っている。ここで、「おいおいおいおい。もうブラインドにしてくれよ頼むわ。」。これは本当にフェアなレビューに影響するので、ブラインドが絶対に良い。少なくとも自分は「この国だから英語が下手なのか」とか「イギリス英語かよ」とか「日本人だ。がんばってるやん。」とか、完全に不順なことを考えてしまう。これは人間性の問題である。こういうことを何のバイアスもなく公平に評価できる人は本当にすごいと思う。自分は無理だ。だからお願いだからブラインドにしてくれ。
そしてこのFrontiersのレビューアーは、ウェブサイトにも論文にもバッチリ名前が掲載され、その時のレビュープロセスもオープンになる。テキトウなことは絶対に出来ないから、良い訓練だと思った。暇だし。やる価値はあるかなぁとも思った。
色々と調べてみると…
それに、5月11日にもらったメールは、せっかく招待されたのにも関わらず無視してしまって申し訳ないし、今回(7月6日に受けた方)は誠実に読んで、受けることができるならば受けよう!と思っていた。そしてアブストラクトを読んでみると、どうやら乳がんの免疫寛容についてのレビュー論文だった。50%が専門、残り50%が専門ではあるがちょっと弱い分野である。かなり悩んだ。
エディターの名前をGoogleで調べてみると、なんと、その先生の専門はナマズの養殖である。とくに、どうやらナマズの養殖における抗生物質の影響なんかを主に研究している先生らしかった。もう完全に心の中がざわざわしていた。
Frontiersは、Loopという独自の研究者データベースがあり、そこで当然ながらエディターの先生らの研究業績から専門について推測できる。当然これは推測なので100%正しくはないだろうが、出している論文の大部分がナマズの研究なので、おそらく、最低でも乳がんの専門ではないだろう。
これは論文のエディターとして圧倒的に不適切ではないのか。Frontiers in Immunologyなんて、たしかインパクトファクターが9くらいあるジャーナルだ。かなり高い。それがこの体たらく。
おそらくこの先生は、そのLoopとかGoogleとかORCIDとかを使って自分を拾ってきたのだろう。この先生なりにしっかり評価して依頼してきたのだろうが、でも全然専門じゃないだろう分野のエディターを受けることも、そもそもFrontiers側が全然専門じゃないだろう先生のところにエディターのオファーを出すのも駄目である。そういうわけで、このレビューアーへの招待は専門ではないことを理由にお断りをした。
ここで、以前からイケ好かなかったFrontiersについて、その行為から推測してハゲタカなのかそうじゃないのかをハッキリさせておこうと考えたわけだ。
ハゲタカジャーナルの定義について
ここでまず、ハゲタカジャーナル(Paradatory Journal)はどんなジャーナルかというと、https://blog.cabells.com/2019/03/20/predatoryreport-criteria-v1-1/に書いてある。ちょっと暇だったんで、訳を載せとこうと思う。
重度(Severe)のハゲタカジャーナル
統合性(Integrity)
- 同じ内容が別の論文にも掲載されている。
- Hijacked Journal(迅速に出版できるようにアカデミック関係者にオファーするような、正当なアカデミックの論文誌であるかのように詐欺のように働くジャーナルとして定義されている。)である。
- ジャーナルのウェブサイトに掲載されている情報と、受け取った情報とに不一致がある。
- 実際は営利目的であるのに、そのジャーナルや出版社は非営利を謳っている。
- ジャーナルや出版社のエディターやオーナーが、アカデミックでのポジションやその学歴を詐称している。
- そのジャーナルが搾取目的のカンファレンスなどと関連している。
- そのジャーナルのISSNが嘘。
専門家によるレビュー(Peer Review)
- そのジャーナルのウェブサイトにエディターや編集者委員の名前がない。
- 実際には存在しないエディターの名前が掲載されていたり、既にやめたりしたエディターが掲載されている。
- エディターに承認やその専門的知識を確認せずに、編集者委員に学生を入れている。
- そのジャーナルがPeer reviewedと書いているにも関わらず、実際はほとんど、もしくは全くpeer reviewを行っていないという根拠がある。
出版上の振る舞い(Publication practices)
- そのジャーナルが、例えば、明らかにpseudo-science(SF)やエッセイのような、アカデミックの研究ではないものを出版している。
- 論文として出版した実績がない。
- SCOPUS、DOAJ、JCR、Cabellsなどの良く知られたデータベースにインデックスされていると嘘の主張をしている。
- パートナーやスポンサーについて嘘をついている。
- コンピューターによって生成されたアブストラクトや論文をアクセプトしている。
指標(Index and Metrics)
- そのジャーナルが、例えばClarivateのインパクトファクターのような指標を、誤って使用している。
料金(Fee)
- そのジャーナルが、将来的な論文のために予めAPC(Article Publishing Charge)を要求する。
- ジャーナルが要求しているAPCやそのほかの費用がどこにも掲載されていない。
- そのジャーナルや出版社がメンバーシップになることやAPCのディスカウントを受けることを提示してきているが、どうやってメンバーになるのか、それがいくらなのか、その情報が与えられていない。
- 論文が提出される前に著者がAPCや出版費やその他を払う必要がある。
- そのジャーナルがどんな費用が必要なのか示していないのに、論文の提出後に費用を請求される。
中等度(Moderate)のハゲタカジャーナル
統合性(Integrity)
- そのジャーナルのタイトルが正当なジャーナルのコピーだったり類似していたりして、混乱を招く原因となっている。
- ジャーナルの名前が、その内容や由来とは無関係な国やデータから採られている。
- そのジャーナルが実際に産業をリードしているかのような言葉を使っているが、実際は新しいジャーナルである。
- そのジャーナルや出版社が科学の人為的な操作につながるような営利目的のパートナーとの関係を隠したり、それがわからないようにしている。
専門家によるレビュー(Peer Review)
- そのジャーナルが実際はその年にほとんど論文を出版していないのに、すごく大きな編集者委員を構成している。
- Peer reviewが不十分(レビューアー一人だけ、専門外の人間がレビューしている等)。
- そのジャーナルのウェブサイトがPeer reviewのポリシーをはっきり書いていない。
- 出版社の創始者が、その出版社によって出版されるすべての論文誌のエディターである。
- 編集者やレビュー委員会がその分野のGatekeeperとして相応しい資格の専門家ではないというはっきりした証拠がある。
- 編集者や編集委員の所属が示されていない。
- 編集者委員の出身地の多様性が乏しいが、そのジャーナルはインターナショナルを謳っている。
- そのジャーナルが採用する委員が著名であるが、ジャーナルにその写真や名前を除く貢献を免除している(名前だけ貸している。)
- 編集者委員が委員としてアポイントを受けて以来、そのジャーナルから連絡が2年以上連絡がない
出版上の振る舞い(Publication practices)
- copyediting(原稿に磨きをかける@google)をしていない。
- 著者の出身に多様性がないのにインターナショナルを謳っている。
- エディターが自分の研究を掲載している。
- そのジャーナルが、沢山の被引用を目的として矛盾するような論文を掲載している。
- そのジャーナルは補足的なPeer review(というか、承認??)もなしにあるカンファレンスで示された論文を掲載している。
- 出版社の名前が、学会員には特に利益もないのに特定の学会など(との関連を)を示唆している。
- 出版社の名前が、それが単独で行っている事業であり、非営利である(ことを示唆する)ことの定義を満たさないのに、ある特定の学会など(との関連を)示唆している。
- 著者が同じ巻や号で複数の論文を出版している。
- 同じようなタイトルの論文が同じ巻や号で発表されている。
- その出版社は特に早い出版を約束するような(4週間以内)特徴的な掲載を行っている。
- 出版数が前年度から75%以上増加している。
- 出版数が前年度から50から74%増加している。
料金(Fee)
- 出版社やジャーナルのウェブサイトが出版費ばかり記載している。
アクセスとコピーライト(Access and Copylight)
- ジャーナルが完全にオープンアクセスであると述べているが、全然オープンアクセスできない。
- 論文にアクセスする手段がない(アクセスする方法や登録の方法)。
- そのジャーナルはオープンだけど、そのジャーナルがどのようにして資金的なサポートを得ているのかが書かれていない(著者からの出版費なのか、広告なのか、スポンサーからなのか。)
- デジタルアーカイブに関するポリシーがない。
- 著作権や著作権の移行に関するポリシーがほとんど書いてないのにも関わらず、著作権の移行が行われている。
- ジャーナルは著作権に関する同意もなしに出版している。
ビジネス上の振る舞い(Business practice)
- そのジャーナルは電子メールを送るのをやめることを尋ねてくるが、ずっと送り続けている。
- ジャーナルや出版社のビジネスアドレスが先進国のアドレスであるが、多くの著者らのアドレスが発展途上国である。
- ジャーナルから送られた原稿を要求するメールが、その分野を専門としない研究者に送られている。
- ジャーナルからの委員やレビューアーへの招待のメールが、その分野を専門としない研究者に送られている。
- 短期間のうちに一つのジャーナルから複数の(招待の)電子メールが届く。
- ジャーナルから送られた電子メールに今後の電子メールの登録解除のオプションが含まれていない。
- ジャーナルがPDFにコピー防止やロックをかけている。
軽度(Minor)のハゲタカジャーナル
統合性(Integrity)
- 論文の不正(plagiarism;盗用、self-plagiarism;自己盗用、image manipulation;画像の操作等)を防止するために十分なリソースが費やされていない。
- ジャーナルや出版社が親会社の出版社が関連することをわからないようにしている。
ウェブサイト(website)
- ウェブサイトに出版社の実際の住所が記載されていないか、嘘の住所が書かれている。
- ジャーナルや出版社が架空のオフィスの住所を実際の住所として使っている。
- ウェブサイトにジャーナルの編集者の実際の連絡先を書いていない。
- ウェブサイトのリンクが切れている。
- ジャーナルや出版社のウェブサイトで、文章のスペルやグラマーが間違っている。
- ジャーナルと連絡を取る手段が記載されていない。
- ジャーナルのウェブサイトがコンピューターウイルスやマルウェアをダンロードさせようとしている。
出版上の振る舞い(Publication Practices)
- 出版された論文数が前年度から25から49%増加している。
指標(index and Metrics)
- その出版社やそれらのジャーナルが標準的なライブラリーや一般的に利用されているデータベースに登録されていない。
ビジネス上の振る舞い(Buisiness Practice)
- そのジャーナルを誰も使っておらず、登録者もいない。
- そのジャーナルのウェブサイトは検索サイト(クロウラー)からのスキャンを許容していない。
Frontiersへの投稿経験から言えること
実は自分もFrontiersへレビューを投稿した経験がある。その記事はここにある。そのときの経験から言えば、しっかりとしたPeer reviewもやっていたし、そのレビューで言われたことも確かにその通りだったので、個々の論文に着目した場合は問題ないものも多いだろうと思う。
ただし、今回のように、エディターがその分野のしっかりとした専門家ではないという可能性が限りなく高い場合は、やはりそのジャーナル自体を信頼することは出来なくなるし、いくらかの割合で不正たっぷりの論文も出版されているということを否定できなくなる。
それに、このFrontiersのやり方も気に食わない。ここは本当にレビュー論文をかなり沢山出版している。レビューってのは、多くの原著論文での報告や最近のトレンドなどを文字通りReviewした論文であり、大量の原著論文をうまいことまとめてあったりするから、知らないことを知るための取っ掛かりとしてちょうど良く、みんなそのような目的として色々な検索サービスを使ってアクセスする。だから、例えばGoogleなんかでは、かなりのトップランクを占めているような気がする。これが圧倒的に邪魔である。みんながクリックするから関心があることとするGoogleのアルゴリズムの邪悪なところである。おそらく、これはFrontiersはそういった戦略を展開しているのだろう。インターネット上にゴミを撒き散らす行為である。
Frontiersはハゲタカジャーナルではないけど….
まず、上記のリストのオレンジでハイライトされた箇所が、今回の招待メールから推測できる該当箇所である。それによると、Frotiersは中等度のハゲタカジャーナルの指標のうち2つを満たすということになる。専門家以外がエディターをやっていること(かもしれない)ことに加えて、短期間のうちに同じエディターから招待メールが届いたという点である。
科学的なクオリティーを下げる行為ではあるが、そんなもんはNature、Science、Cellだって結果としてやってしまったりするだろう。そういった場合は論文を取り下げて誠実に対応すれば良いだけの話である。それに他の点は大丈夫そうである。
ということで、上記のリストの定義に照らし合わせた場合Frontiersはハゲタカジャーナルではないという結論になる。
しかしながら、今回のこの気付きによりFrontiersは決して誠実な出版社とは言えないと結論付けることができるのではないかと思う。まず、実績のある専門家以外にはエディターなんて務まるわけがない。もちろん可能ではあるが、当然ながら上記の定義にもあるようにGatekeeperではない。もしそれが大部分の論文誌で行われていることであれば、科学論文のクオリティーは徐々に低下していき、最終的にはインターネット上に落ちているのはゴミばかりになるだろう。研究者はその大量のゴミのなかから良いクオリティーのものを探す必要が出てくる。ゴミなんて、邪魔でしかない。
昨今のChatGPTの台当により、ゴミくさいSFのような文章をあたかも信憑性があるように、しかもほぼ自動で書くことが出来るようになってきている。当然、科学研究においても今後、このような科学の信憑性に関わってくることをちゃんとコントロールするための動きがでるはずである。そうなった時に、このFrontiersはWeb of Scienceのインデックスから排除されないか見モノだと思う。ちなみに、自分はChatGPTはうまく使うべきと考えている賛成派である。
因みに
上記のリストのうち、青でハイライトした指標であるが、個人的にMDPIのジャーナル(紛らわしいタイトル)やScienrtifi Reports(実際はクソ遅い出版もある)が該当するように思う。
なにかの調べ物をしていて思うが、このMDPIとFrontiersのジャーナルは、Google検索のトップにランクされているし、Pubmedでもいっぱい引っかかる。そしてMDPIが本当にムカつくこととして、そのジャーナル名が高名に見えたり、高名なジャーナルに寄せてきていたりすることで、非常に邪魔なことである。
その点ではFrontiersはジャーナルのタイトルにFrontiersなんとか、と付いていることが多く見分けが付く分マシである。でも、Frontiersとか付いている論文なんか最初から読まねぇけどな。時間の無駄だから。