日付;2021/11/01(月)
10月いっぱいで今年の1月に新しく来たポスドクが辞めてしまった。うちのラボのポスドクの在籍期間は疑ってしまうほど短い。一体、4年で何人のポスドクが途中で辞めるのだろうか。自分を除く、ポスドクとして在籍した4人のうち、3人が1年続かなかった。平均半年未満だ。これが起こった場合の共通点として、個人的にすごく胸くそ悪くなることだ。本当に勘弁してほしい。けっこう気まずいし。
これは明らかに、うちのラボは大丈夫なのだろうかと思わせてくれるに十分な理由である。辞職の理由は、都合により家族が母国に帰る必要があり、次に何時会えなくなるかわからないから一緒に帰る、ということらしい。しかし、これはボスから聞いたことであり、本人から直接聞いたわけではないので、本当かどうかわからない。それに、そんな短期間で辞めてしまうような職場に本当のことを言う意味などないだろうから、本人から直接聞いていたとしてもそれが本当かどうかわからないと思う。ただし、彼は最近体調が良くなかったようであり、その症状を聞いたときに、これはストレスが大きいだろうな、と確信してしまった。
個人的に想像できるその理由を以下に記しておこうと思う。はっきり言って、いつ捏造が起きてもおかしくない、悪いラボの見本みたいなラボであると思う。
あまりにも休みがない。というか心が休まる暇がない。
おそらく常に監視でもされているのではないか、と思ってしまうくらい干渉が多いように思う。
まず、研究に関しては当然のことながら、通常、一日に2回は進捗状況を報告しなくてはならない。最悪、会うたびである。生物学の実験なので、そんなに頻繁にデータがでるわけがない。この対処方法として、朝進捗を聞かれたら、先に「今日はXXをやります。なのでYYYYYです。」と言ってしまい、先手をとってしまうようにしている。そうするとなぜか、「わかった。」くらいにしか言わないし、何か思っていることと違うことがあれば、「でもZZZZもやれよ。」となって、そのくらいで終わる。それに、言うても基礎研究であることは理解しているらしく、それ以上聞かれることはない。とにかく、話の流れを 「今日はXXをやります。なのでYYYYYです。」 と言ってしまえば良いらしい。あとは、とにかく無視する。何度も何度も進捗を報告するほど暇ではない。このクソくらだらい話で短くて数分は無駄になるわけだし、作業も中断してしまうので、実質的には数分のロスでは済まない。
進捗状況を何度も聞かれること自体が、自分が思う本質的な理由ではない。本当に問題なのは、もしそのときの実験結果の説明で少しでもボスにとって都合の悪いことデータであれば、たとえ実験の途中だったとしてもそれを中断させられる、または、お互いに合意して以前から準備をしてきた実験でも中止させられる、ということが起こる。さらに、それが決まって少し優秀じゃないヤツ(自分も含め)に対して起こる。優秀なヤツはおそらく口も達者なので、それを避けるのであろう。優秀じゃないヤツにとって見れば、ボスの機嫌は明らかに悪くなるし、自分が捨てられるような態度を取られるし、そんな状態で中断するのでどうして良いかわからなくなる。そんなラボに誰が居続けたいと思うだろうか。
マジでムカつくのが、そういうとき、「あからさまに、如何にも不機嫌そうに、まるで自分が一番の被害者であると言わんばかりに大きくため息を付きながら、どこかに行くこと」である。当事者はもちろんのこと、当事者ではない周りの人間にもかなりの不快感を与えるので、止めてほしい。これは絶対にやったら駄目と本当に勉強になった。おそらく現RAの前のRAは、こういうことの積み重ねでボスに暴言等を吐いてしまったこと、不適切な振る舞いなどをやってしまったことでクビになっている。はっきり言って、彼の気持ちは痛いほどよく分かる。
次に研究外のことである。研究について進捗を聞かれるのは、一方では信頼がない証拠とも考えることができるが、一方では当然とも考えることができる。しかし、研究外のことについては問題と思う。例えば家庭の事情なんかを自分のデスクで取り組んだり、日本語を書いていたり(メールなども)していたりすると、確実にチェックされている。という被害妄想かもしれないが、それだって「被害」である。メンタルが弱い者は耐えれないだろう。自分については、履歴書を日本語で整えているときに一度聞かれた。また、過去の研究を論文にしているとき、土日にも関わらず研究室で原稿を書いているだけで、何かのインタビューなのかというくらい全部説明させられた。それ以来、全くと言っていいほどその原稿に集中できなかった。過去の所属先の先生には本当に面倒な思いをさせたと思うし、自分としてももうちょっと内容を確認したりしたかった。子供がいるような家庭ではなおさらである。休日は家庭のために時間を使わなければならないし、平日だって何かしらの作業が生じる可能性が明らかに高いだろう。それを気兼ねなくやれる環境でなくては、長く働くのは無理である。実際、在籍の期間が以上に短い3人のポスドクのうち2人は子供がいたし、その二人とも辞める理由に、背景は違えども、(たぶん)自国に帰るというのがあった。ちなみに、これは外国が本籍の者がアメリカの職場を辞めるための理由の常套手段である。実際は近くに居る可能性が高い。要は、その職場がクソなんで辞めるときに使う理由、という意味である。
あと、場合によっては土日もあまりにも本気で働かなくてはならない。これは自分にとっては良くないことである。もしそれによって体調を崩したりしたら、誰の責任だろうか。おそらく自分だろう。一度(2019年1月)、諸事情によりこれを無視してクビになりかけた。ただし、そのときは、こんな状況ならば本気で辞めても良いと思っていたので、まぁ覚悟はできていたというところだった。ちなみに、このときは自分が取り組んでいる研究の根本の部分に捏造があるのではないかと本気で疑っていた。そして、そんな疑わしいデータをメインに据えてデータを出せと言われていたので、この状況が続く以上、続けるのは無理というか、危険だと思っていた。そしてなんと予想通り、それに近いことを査読期間中に発見してしまった。それを明言する機会ができて良かったのかもしれない。おそらく、これが最近のラボで最も状況が悪かったときだと思う。場合によっては土日勤務も必要だが、土日も働かなくてはならないということは、一般的に言えば、平日に仕事を終わらせることができない、とか、計画が悪いなどを意味していると考えることができ、そしてそれはあながち間違いではない。それにここはアメリカである。土日も夜も職場で仕事しているヤツは、結論として「変態」と見なされ、敬遠されているように見える。実際、そういうヤツの会話は面白くないので、付き合っていたくない。
言わせてもらうが、そんなに他人を信用しないので、自分も信用されないのではないかと思う。
間違えているかもしれない仮説を、それが正しいと思わせるデータが取れるまで繰り返し実験させられる。
今回辞めてしまったポスドクに起こっていたことは、「TNBC由来の細胞株にEMT reversalな状況を引き起こすと、NK細胞による致死効果が高まる。」ということが以前の研究結果より示唆されており、これを再現するためにあるin vitroの実験をしていたのだが、この実験結果があまりにも不安定でいつもバラついており、有意差なんて到底得ることができないような実験だった。それにも関わらず実験を強行させられ、実験がうまく行かなかったデータを捨てて統計をとり、なんとか理想的なデータを得た、というものだ。「 有意差なんて…. それにも関わらず実験を強行させられ 」までは個人的な印象であり本当かどうかわからない。しかし、「実験がうまく行かなかったデータを捨てて統計をとり」という部分はミーティングでの進捗状況を見ている限り事実だと思う。彼はこんな実験に6ヶ月間費やした。本来なら、そんな不安定なデータは棄ててしまう必要がある。そうしないと、誤った結論を導くだろう。
この実験の元になっている仮説にだって異論がある。このデータは実際にNK細胞の割合が減少していたから採用した仮説なんだろう。しかし、自分からみれば、EMT reversalと言うにはデータが不十分であるし、フローサイトメトリーで死細胞の染色による除去をやっていないので、結果が間違いではなくても、Over-estimateしている可能性が限りなく高い。通常、細胞表面マーカーを染色してフローサイトメーターで解析する場合、死細胞の除去は必須である。その理由は、死細胞は細胞膜が破綻しているので、抗体によっては細胞内にある抗原にまで結合してしまい、誤った結果を出すことがある。というか、ほぼ100%で細胞内に存在する抗原を認識する。死細胞で染めたサンプルを解析して比較してみれば明らかである。なので、この仮説自体間違いの可能性が高いと思っている。そんな理屈じゃ、それに続く結果に有意差はないだろう。
自分のミスかもしれないのは、それをそのポスドクに伝えてしまったことだ。これは言わなければ良かったかなぁと思っている。でも、言わなかったら言わなかったでフェアじゃないようにも思う。永久に失敗し続けるわけなんだから。それに言ったことは、まさに死細胞除去をしていない箇所で、「彼のデータにアクセスできるはずなので、もう一度自分で解析しいや。そんな理由なので、おれ、あんまりあの仮説信じてないで。」という旨のことだった。英語はペラペラなんだから、そのあたりは自分の能力でカバーしてほしかった。自分で解析して、問題があるならばそれをボスに伝えれば良かっただろう(しかし、それを言うにはものすごい強さのメンタルが必要である)。
これに近いことは自分にも起こったことがある。上述の通り、これで自分はクビになりかけている。この問題に関連した出来事で、土日も無視し続けたのもある。そのとき、ボスの部屋に呼び出されて、「お前どういうつもりだ、やる気ないのか。何か問題なのか言え」的なことを確か言われた。なので、自分が思っている問題を言って、最後に確か「こんなものはResearch misconductになり得るので、それ以上こういう状況で研究を続けるのは難しいです。」と言ったと思う。その時、多少ボスの顔色が変わった、言うたら、青ざめたとように感じた。その後、怪しいといったをなぜか再現させられた。再現できなかったら、一体どうなっていたのだろうか。それに、再現することは、その仮説や論理の怪しさを解決する手段じゃなかったと思うのだが。青ざめた時点で自分の勝ちと思っている。
一般的なデータから少しずれていると、その実験結果がいくら正当、もしくは差がなくても信じない。
このラボは、TNBCに着目し、その治療のための新規抗がん剤の抗腫瘍効果とそのメカニズムを解析している。強いて言えば基礎研究という分野になるのだろうが、サイエンスではなく、トランスレーショナルスタディーになると思う。それは全く悪いことではないし、むしろ治療成績を上げるためだったり、新薬を世にだすことを考えれば絶対に必要な研究領域である。しかしながら、臨床上興味がない、着目されない、信じられない等の理由で、トランスレーショナルスタディーからサイエンスを取り払ってし合うと、一気に捏造やミスリーディングを導いてしまう。このラボはそういうラボであると、個人的に思っている。
つい最近まで、解析対象としてきた新規分子標的薬をPROTACの形して細胞に投与し、どの化学構造の薬剤が最も標的タンパク質を分解する能力が高いか、という、言ってみれば新規薬剤のスクリーニングを行っていた。それは開発段階であり、それに、自分にはそれはお試し実験、薬剤を調整してくれるラボとのコラボレーションの前段階の実験に見えた。だから当然、全く上手く行かない可能性のほうが高いと考えている。なぜかというと、既存の薬剤を、おそらく「テキトウ」に、つまり、確固たる論理もなしにPROTACにしているためだ。おそらく相手のラボとしても、うまく行ったらラッキーくらいに思っていただろうと推測している。そのスクリーニングの実験の結果、理想的な差がでない場合、例えばローディングコントロールのほんの少しの差のような、ほんの少しの理由をつけてその結果をゴミにして、同じ実験を差がでるまで繰り返すということを行っている。逆もあって、対象に理想的な差がある場合、いくらローディングコントロールがずれているとしても、採用してしまっていた。そして、そのミーティングで言われるのが「この実験は信頼できない。」ということである。はっきりと自分が信頼されていないと言われるのと同じくらい精神的にダメージを受ける言葉だと思う。もし薬剤が本当に効果がない物だったらどうだろうか。先日、この薬剤で実験をこれ以上続けるのは無意味であるとしてそれ以上の実験は断ったが、これがもし新しいポスドクだったらどうだろう。未熟だったり、本当にサイエンスをやるつもりで来てたりすると、当然のようにすぐ辞めるだろう。
また、学会のアブストラクトでもそうである。先日ある大きな学会のポスターディスカッション(ポスターセッションの一個上のグレードの発表。オーラルより下)に採用されたが、そのアブストラクトも、かなり話を盛る。そして、予想以上に良いセッションに採択されてしまったので「こんなこと書いてある。どうしよう。」とか言い出す始末である。そんなのは自業自得である。発表のとき上手にカバーするしかないだろう。基本的に、本気でサイエンスをやっている者は、こういうの嫌いではないだろうか。日本の医者はよくやるが。
そしておそらく、リクルートでも話をかなり盛っており、実際に本人が従事する実験と、伝えている実験に違いがあるのだと思う。だから、フタを開けてみて、新ポスドクはすぐ辞めてしまう。
実験のミスや解析の間違いに対する責任が重すぎるため、ラボの個人間の協力体制がない。
現所属で研究を始めたころ、あるポスドクの解析を手伝ったことがあるのだが、その週のミーティングで、「お前は協力するな。自分のことだけをやれ。」という旨のことを言われたことがある。本当にそれには愕然としたことを覚えている。これまでで一番ショッキングな言いつけだったと思う。その頃から、その言いつけを「バカ」正直に守って、協力しないようにしている。これは全くもって良いことではない。今はもう協力しても問題ないくらいになっているかもしれないが、依然として協力して解析することはこのラボでは危険と考えている。その理由は、上記3.の理由のためだ。研究というのは間違いや失敗(リサーチミスコンダクトではない)がつきものであることは言うまでもない。しかし、もしそれが3.に該当する場合、うちのラボではちょっと大変なことになる。責任を負うことはできない。なので、うかつにサポートもできない。そして、これは別の問題を引き起こしている。誰も協力しないということが転じて、誰にも悩みを相談できないということが起こるのではないかと思う。研究を行っていく上で、相談できないなんてのは問答無用で大問題である。仕事的にも精神的にも普通では耐えることができないと思う。本当に、なぜこうなっているのかと思う。こういう人はPIになってはならないのはないかと思う。まぁ、10年後にはこのラボはないだろう。人も学生も付かないんだから。
ラボ間のネットワーキングができない。
4.と同様の理由による。もし他のラボの者に、すこし抗体を分けました。なんて言ったら、一体どのくらい機嫌が悪くなるのだろう。以前、コールドルームにあるシェーカー(ちなみに、アメリカではブロットの洗浄に使うシェーカーのことを一般的にロッカー;Rockerと言うっぽい。)に、ブロットを置かせてくれと言ってきたので、まぁそのくらいならいいかなぁと思ってOKを出したときのことだ。それをPIが見つけるなり、そのラボに行き、おそらく「おまえのラボはコールドルームがあるだろう。自分のところでやれ。」と言いに行っていた。こんな面倒くさいヤツ、誰も仲良くできない。
以前学会に参加したときもそうだった。学会でのネットワークングが下手すぎると思った。ポスター発表で、どこかのPIが「お前のところのオルガノイドを分けてくれ。」と言ってきたので「うちのPIに聞いてみてくれ」と行ったときのことだ。そのときはうちのボスも発表があったらしく(その日までそんなこと知らなかった)、その後にボスに「あの人がオルガノイドについて話したいみたいだよ。」と伝えておいた。しかし、「疲れたわ。」と言ってずっと自分のポスターの前に張り付いていた。そのときは本当に意味がわからなかった。本気で「このひと、一体なんのために学会に行ってるのだろうか。」と思った。ラボでネットワークづくりが出来るのは、PIしか居ないと思うのだが(その限りではないが、もし、それ以外の者がネットワーキングをやっていたら、それはそのラボを出るときの可能性が最も高いと思う;研究の権限はPIが握っており、その部下は提案くらいしかできない。)。少なくとも、他のラボの人間と話くらいしてほしかった。
おそらく、そのポスドクもそれに気がついた、もしくは気がついていたのだろう。辞職するときに家族のことを引き合いに出すのは、職場に問題があって辞める場合の理由の常套手段でもある。それに、母国に帰るとか言っても、先日家を買っただの、グリーンカードの何かがどうとか言って喜んでいた。しかも時期も時期(アメリカは9月から新年度)である。もしかしたら、スローンケタリングあたりに再就職しているのかもしれない。
知らんけど。