最近うちのラボについて思うこと(その1)PIと研究室の研究能力

日付;2021/06/19(土)

昨日のミーティングでこれを強く感じてしまったので、常日頃から思っていることと合わせて記録しておこうと思う。何が言いたいかというと、生意気かもしれないが、今、ボスの、もしくはラボ全体の研究に疑問を感じているということ。すごく言い方が難しいが、研究能力自体はあるんだろうが、あまりうまいこと成り立っていないというか…例えて言うならば、Windows 10が終わりかけているときにWindows XPを使っているというか、古いソフトが動くからという理由でOSX snow leopardを使っているというか…Octacoreのこのご時世にsingle coreのCPUを使っているというか…まぁいい。以下に思いつくだけ記す。

  • 論文のインパクトが高くないし、出版の頻度も高くない。業績に直結しているようなラボのアクティビティーが低いように思う。
  • ボス自身さえもあんなに実験しているのに、なぜ論文がないのか。明らかに他のラボよりも遅くまで、ずっと実験しているのに、見た感じ論文がない。これは他のラボを見渡してみればわかる。
  • これまでの論文を考えてみると、多く(当然だが、自分が知る限り全部。本当にすべてを知っているわけではないが)がポスドク、もしくは優秀なRA(Research Associate)に依存しているように思える。そして本人が過去に書いた論文にしても、良い研究だったっぽいが、そこまでインパクトがあるとは思えない。もしかして、彼らに研究を一任していたら、もっと論文でてるんじゃあないのか。
  • 他のラボとのコラボレーションがこんなにないものか。あるのかも知れんけど、他のラボとのミーティングとか無すぎないか??部下は出ていないだけ???
  • 薬剤を修飾してくれるラボとは一応知り合い(かどうかわからん。メールして向こうが快諾しただけかも)で、これまでに用いてきた薬剤にある機能(ミセルにしてみたり、E3リガーゼを付与してみたり) を付与したりしているが、そのトライってランダム(テキトウ)では??? なぜその薬剤にその修飾を加えた??いい結果が得られるかもしれないから「やってみた」だけ??改善を支持する他の理屈はないのか??うちらのラボは薬剤自体の研究ではなく、乳がんに対するそれらの薬剤の影響の解析である。薬剤のフォーマットが変わった(薬剤の物性、作製、PKや標的に対するアフィニティーなど薬理自体を解析しているラボにとっては良いのだろう。)としても、その薬剤の効果が標的に対し特異的である以上、結果として生じる影響(理想的には、その標的をノックアウトしたときの影響に近いものになってくるはず。)は似通っているはず(もし違っていたらどういうこと??これまでに解析で得られた結果、その結果、どっちがオフターゲット??)なので、同じような観点から研究していても、新しい結果が得られることはほぼないはず。やっていることとしてはまるで放射線源を変えてコロニー形成法を永遠と繰り返す放射線生物学研究と同じで、発展性や新たな発見は期待できない。何がしたいのだろう。ランダムは良くない。自分の研究を俯瞰してみて、気が付かないのだろうか。気がついているけど、それで良いとおもっているのだろうか。今回最も不安に思っていることの一つがこれだ。
  • こういった研究のセンスに関連することがもう2つある。それは自分の研究ともうひとりのポスドクに関することだ。これはポスドクの能力に関連するとも言える。しかし、研究の主導権のほぼすべてをボスが持っている場合は、ボスの責任になるはずである。自分の場合はまだマシな方である。しかし、自分の場合は研究の流れの採用の仕方が悪かったと思う。Cancer Researchに掲載されたある論文(PMID: 30139814)である分子標的薬により腫瘍中のMDSCが減っていることが示されており、この薬剤の標的は、自分たちの標的のうちの一つと同じなので、自分たちもそれをやろうという、流れだ。この学生のようなスタイルはなんだ??しかもこの論文、図では腫瘍中のPMN-MDSCが統計的有意に減少しているようだが、本文中でsignificantではなかった、と言っている。おそらくこれは平均値で約2%から約1%に減っただけであり、全体としてのMDSCは薬剤投与群と非投与群で違いはないからだろう。これらを考えると、仮説からその採用までの流れが誤りである可能性がけっこうあるのじゃあないか、ということになる。もちろん、自分たちの実験ではそんな仮説は証明できなかった。これは今後も主張し続ける必要がありそうだ。
  • 次はもうひとり別のポスドクの例だ。これは自分よりも不味い気がする。まず、過去に居た旧ポスドクが、ある分子標的薬を投与することで乳がんの間葉系の性質を減少させる、という論文が2つ(PMID: 27302163, 29167821)ほどある。この研究の延長として、その薬剤を投与することで腫瘍中のNK細胞が増える、という結果をミーティングで出していた。その時点でこの旧ポスドクは他へ移ってしまったが、その研究を引き継いだのが、現ポスドクである。ちなみに、この現ポスドクになるまでにすでに2人のポスドクが辞めている。一人は何らかの理由で国に帰り、もうひとりはボスが嫌で辞めている。その現ポスドクの研究は、そのまま書けば「weather EMT(上皮間葉転換) reversal increases NK cell activity」である。この時点ではそれで良いように思う。しかし、その薬剤を投与してもどうやら結果が再現できないらしい。具体的にはその薬剤投与後に減少するはずのSnailのタンパク質発現が減少しないらしい。つまり、旧ポスドクの2つの論文にある、最も基礎的で重要な結果が再現できないらしい。自分はもはやこれらの研究結果に何か作為的な操作が含まれているのではないかと疑っている。それはデータの捏造とかではなく、一般的ではないちょっとした解析手技だろう。誤りではないにせよ、一般的な方法ではその結果は再現できないのだろう。これは怖いことだと思う。それなのに同じ仮説で研究を続けており、最近では使う薬剤変えてしまった。それにも関わらず、依然として同じ研究テーマで行っている。これはどういうことだ??個人的にこれはアウトである。その仮説は、特定の薬剤を用いた場合に得られた結果から出発しているものであり、標的(旧ポスドクが使っていた薬剤の標的)が変われば詳細(この場合は「NK細胞」。もちろん、EMT reversalもかなり眉唾なので、注意深くみていく必要がある)も変わるはずだからだ。さらに現在はEMT reversalを確認しないまま、NK細胞の活性をin vitroでみている。旧ポスドクのNK細胞に関する結果は、in vivoの解析によって得られた結果だった。だからin vitroで再現できないのは当然あり得る。ただし、旧ポスドクはその実験(Flow Cytometory)の実験で死細胞のゲーティングを行っていないらしい。これについては昨日に旧RAがラボを訪ねてきたときにミーティングで聞いたので確かだ。自分の経験上、in vivoサンプルのFlow cytometoryで死細胞の排除を行わない場合、ほぼ確実に誤った結果を出してしまう。シングルセルにするときに腫瘍や細胞によってはかなりの割合が死んでしまうためだ。どのプロトコールを読んでも、死細胞を染色してゲーティングする旨が書いてあるはず。つまり、旧ポスドクの結果が間違っている可能性がある。現ポスドクには「そのデータをもう一度解析したほうが良いのではないか?自分だったら絶対確認するけどな。」と既に言ってある。また、新ポスドクが使い出した薬剤はなんと旧RAが使っていた薬剤であり、それを使いだした理由が、おそらく「乳がん細胞のVimentinが減少するから」と「細胞の形態がなんか丸くなるから」である。学生じゃないんだからそういうことをするの早めてほしい。ミーティングでこういった穴を指摘するときがあるが、彼らの耳には「うるさいオッサンが何か言うとるわ」くらいにしか聞こえていないのだろう。上皮間葉転換については論文が乱立しており、その現象を上皮間葉転換と言うためにはいくつか示さなければならないことがある。しかし、旧ポスドクも新ポスドクも旧RAもそれらの条件を全部満たす結果を出していない。したがって、仮説が正しかった可能性もかなり低いと思う。最終的にこのテーマに固執しているのはボスなので、うまく行かなかったらボスの責任になるだろう。
  • なぜ実験直前、もしくは開始後に、実験全体の影響するような、ただの思いつきのような、なんの論理もなさそうな、直感のような提案をしてくるのか。特に動物実験ではモチベーションの維持や一貫性について致命的なことがある。このひと、自分が思っている以上にサイエンスをしていないのではないだろうか。アメリカなのに。ここに日本とは別の、アメリカのラボ運営の闇を感じる。
  • 他人への実験結果の説明が、どうしても誇張しているように聞こえてしまう。そんなに良いデータだったか??まさかだけど、他人に対してイキりたいだけじゃあないだろうな。「臨床にも直結する基礎研究を元気にやってます!!週一回は臨床にも出て、実際の患者も見てます!!!」的な。ラボメンバー以外に対する話し方を聞いていて、そう思う。この人にとっての研究とは、日常に研究をしていない人たちに対する対外的なアピールの道具なのはないだろうか。だから二兎を追っている医者は嫌いなんだ。博士課程のときの主査もこれだったように思う。これって、上記したラボの論文が出ていないことなどと矛盾しない。そしてこういうヤツが、エセ研究者というものだ。以前もいったが、MD, PhDにはかなり多い。博士課程のときの主査もエセ研究者もしくはエセ教育者だったし、このひともエセ研究者なのではないだろうか。実際の臨床にどうしも関わりたいのなら、いっそのこと基礎研究なんて辞めて、臨床一筋になれば良い。上記も含めて考えても、基礎研究やサイエンスするセンスを感じられない。
  • なぜ臨床検体を使わない??PDX苦労して集めたんだろ??なぜ使わない??マジで、解析はin vitroのWBしかできねぇんじゃあないかと思うくらい、他の実験をやらない(嫌っているように思うこともある。とにかく、拒否が強い。)。そんな古典的な実験だけで、なにかの生物現象、そのメカニズムを発見、解明できるとは思えんが….今のがん研究って、PDXのような貴重な検体を、最新の解析機器・手技により、統計的にも堅牢な解析を行うのが、良い論文を書く近道なのではないか?この大学はそれを行う施設があるのに、なぜそれらを最大限利用しないのだろうか。
  • 実験するのはいいが、片付けろよ。先週の木曜日にこの人はゲルを流していたようだが、それが片付けもしないでそのままやりっぱなしになっていた。写真を取りたかったんだけど、さすがに今日片付けられていた。残念。それにこの日、以前うちのラボにいた旧RAがフィラデルフィアから突然来たのだが、なんと、ミーティングに顔を出して近況などを話したあと、自分が以前採取したライセートを片付けだした。そんなこと、仕事辞める前に全部終わらせておけよ…なんて時間の無駄な….

この状況って、迷走という気がするが….

これらはどの研究分野にいっても、ビジネスだったとしても同じことだと思う。注意深く観察、チェックして、そうならないようにしないと行けない。